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明日の風に・中世追憶編  作者: 風城国子智
断章 その、物語
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断章-1

 足音高く石畳を蹴り、見知っている小さな背中に体当たりする。開理かいりが体当たりした相手、開理の名付け親である禎理ていりは、ぶつかられて初めて小さな開理に気が付いたかのように振り返り、そして優しく微笑んだ。


 その禎理の対応に子供扱いされたように感じ、頬を膨らませる。禎理は、この天楚てんそ市でも指折りの冒険者。開理の父である天楚の貴族騎士須臾(しゅゆ)の、武術道場での先輩だというのだから、武術の腕もかなりのものであるはず。今度の誕生日でやっと五つになる、まだ小さな子供である開理が近付いて来たことくらい、分かっていたはずなのに、それでも、禎理は、事前に振り返ることも避けることもせず、開理の小さな身体が自分の背にぶつかるに任せた。馬鹿にされたと、感じてしまう。だから開理はもう一度わざと、禎理の背にありったけの力を込めてぶつかった。


「こんな所に居ては危ないよ、開理」


 その開理の攻撃を何とも思っていない顔で、禎理が開理に小さな手を差し出す。


「お母さんが心配している。帰ろう。それとも、三叉さんさ亭に行く?」


 禎理の言葉に、開理は悔しさを半分残して禎理の意外に柔らかい手を握った。


「帰る」


 天楚市内にある指折りの冒険者宿である三叉亭の主人六徳(りっとく)が作るシチューと、三叉亭にいる冒険者達が語る物語は魅力的だが、日が暮れるまでに帰っていないと父や母に叱られてしまう。今日は黙って屋敷を抜け出してきたのだから、尚更だ。開理の祖父である、天楚の高位の貴族の一人である六角公(まこと)の病気が重い為、公の代理、そして後継者として国の政に参加している父も、妹が生まれたばかりでその世話に明け暮れている母も、両方とも今は忙しくしていて開理を構ってはくれない。それが淋しくて屋敷を抜け出してきたのだが、やはり、父や母に心配を掛けてはいけない。そのことだけは、禎理に言われるまでもなく分かっていた。


 ゆっくりと、夕刻の光に揺れる天楚の通りを歩く。初秋の天楚市は何時に無く賑やかで、そして握っている禎理の柔らかい手はいつもの通り温かだった。




  ミ エスタス ヴェント、カィ ヴィ エスタス テーロ


  ヴィ レンコンタス ミン チーアム クン アウステーロ


  ミ ポーヴァス ディーリ、セド セン エルオクヴェント


  ミ ヴォーラス レヴェーニ チェ ヴィ クン ヴェント




 開理の誕生祝いに名前と共に開理に贈られた、禎理自身が作った歌を禎理が口ずさむ。大陸全土で通用する共通語は習い始めたばかりだから、歌の意味は分からない。分かるのは、この歌を聴くと少し心がきゅっと痛む、その痛みだけ。


「禎理」


 その痛みを振り払う為に、強く禎理の腕を引く。


「名付け子への贈り物、まだ持って来てくれないの?」


 六角公家に産まれた子供なのだから、開理の名付け親になってくれる名の有る貴族はたくさん居たはずだ。現に、妹に名前を授けたのは六角公妃。なのに何故、父は一介の冒険者であり、大陸を彷徨う定めを持つ最下層民『流浪の民』出身である禎理を開理の名付け親に選んだのだろうか? 何度も脳裏に浮かんだ疑問が、再び、開理の首を傾げさせた。禎理と父は武術道場の先輩後輩であると父から聞いても、古代に栄えた帝国が用いていた魔法文字である嶺家れいか文字に禎理が精通していると母から聞いても、その疑問は脳裏から消えない。だから、なのかもしれないが。


「この世界で一つしか無い宝物、絶対持って来てよ」


 貴族を名付け親に持っている、開理の周りにいる子供達は皆もらっている豪奢な贈り物を羨ましく思う心のままに、子供である開理からみても明らかに無理だと思う要求を、禎理に向ける。開理の言葉に、禎理はにこりと笑っていった。


「分かった。約束だ」

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