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次に玄理が目を覚ましたときには既に、大聖堂の中は薄明るくなっていた。
炎が消えてしまった蝋燭が、小さく空しく佇んでいるのが見える。朝が、来てしまったのだ。もう、逃げることはできない。一晩中泣き、枯れたと思っていた涙が、再び頬を流れた。
「玄理」
大聖堂の固いベンチに腰掛け、玄理と一緒に眠っていた累が、玄理の頬をその細い指で拭いてくれる。ありがとう。その言葉を言う前に、玄理の耳に大聖堂の扉が開く重々しい音が聞こえてきた。昨日と同じように、銀色の板金鎧を身につけた騎士達が、並んで大聖堂の中に入ってくる。先頭にいるのは、六角公の紋章を織り模様で入れた緋色のマントを身につけた須臾と、第九平騎士隊の紋章を銀糸で刺繍したマントを羽織った大円だ。二人とも、青ざめた顔色をしている。
何も言えない玄理の前で、須臾と大円が無言のまま、禎理の亡骸を外へ運ぶ為の輦台に乗せる。須臾と大円、そして千早と六徳が担いで運ぶ輦台を、玄理は呆然と見送った。
「俺たちも行こう」
エクサに促されるまま、ぎくしゃくとした足取りで大聖堂の外へ出る。夜の間に積み上げたのであろう、広間の真ん中には既に、薪が高く組まれていた。その薪の山の上に、須臾達は禎理をそっと乗せる。
「禎理」
小さく高い声に振り向くと、両手に小さな赤ん坊を抱えた七生が俯いて立ち尽くしていた。七生だけでは無い。七生の後ろには、まだ夜明け前だというのに多くの人が居る。呻き声、そして啜り泣く声が、大きな広場を埋めていた。
「これで、良いんだ」
玄理と累の後ろに立った六徳が、二人の肩を静かに掴む。亡骸をそのまま土に埋めれば、禎理の身体を利用しようとする者が再び現れるおそれがある。亡骸を焼き尽くし、骨を砕いて風に晒せば、誰も禎理を、自らの欲望の為に利用することはできなくなる。常に旅を求めていた禎理も、風となって世界を旅することができる。六徳の言葉がすとんと心に落ち、玄理は涙を拭いてこくんと頷いた。
金色の髪が視界に入り、静かに顔を上げる。積み上がった薪の山に天楚王自身が火を付ける様を、玄理は記憶に焼き付けるようにしっかりと見詰めた。これで、本当に、禎理には二度と会えない。悲しさが、再び玄理の心を噛んだ。だから。
「禎理さん!」
煙で曇った虚空に、玄理は思わず、叫んだ。




