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明日の風に・中世追憶編  作者: 風城国子智
第一章 遺されたもの
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1-21

 広場にある大聖堂へと続く地下道を、犬型を取っている千早ちはやの後から急ぎ足で、しかし辺りの全てを見逃さないように歩く。


 夏至祭は、今日。しかし禎理ていりの姿は、今に至るも見つかっていない。自分を捨てた母への復讐の為に禎理の亡骸をその墓から掘り出し、無慈悲な自動人形にした張本人である禎理の異父兄とその仲間達は、天楚てんそを守る第九平騎士隊の隊長大円たいえんに引き渡したというのに。彼らの隠れ家をいくら探しても、禎理は居なかった。漏れ聞いた彼らの企み通りなら、おそらく禎理は、これから行われる夏至祭で王を暗殺する為に、天楚のどこかに潜ませられているはずだ。警備の厳重な王宮を出て、市街地の真ん中にある大聖堂に向かう王なら、タイミングさえ合えば暗殺するのは難しくない。しかし、禎理にそんなことをさせるわけにはいかない。カンテラの明かりが作る影の向こうを慎重に確かめながら、玄理はぎゅっと唇を引き締めた。


 あることを思い出し、立ち止まって自分の右手を、じっと見詰める。『担い手の素質を持つ者』。禎理を利用して天楚に騒動を引き起こした人々の部屋にあった不思議な光を持つ鉱物を半分溶かしてしまった時に、千早は玄理のことをこう呼んだ。この世界を混乱に陥れる『力有る石』を消し去ることができる、禎理と同じ力を持っている、とも。『埋もれた都』を生じさせ、そこに封じられた本物の天空神も、この『力有る石』に操られていた。そして『力有る石』を消し去ることができる『担い手の素質』を持つが故に、禎理は天空神の秘密を知り、そして無惨にその命を断たれた。そして今、玄理が持つこの『力』が、禎理を助ける為に必要であるらしい。


「おそらく、禎理は『石』に動かされている」


 敵の隠れ家で『力有る石』を見た六徳りっとくの、忌々しさを隠した声が、脳裏に蘇る。玄理が触れたときに禎理がその動きを止めたのも、おそらく、禎理が『力有る石』によって動かされており、玄理が『担い手の素質を持つ者』だから。説明する千早の言葉に、玄理の全身は我知らず震えた。禎理が『力有る石』という邪悪なものに操られているのなら、その『石』の力を消すことのできる者が必要。禎理を止めることができるのは、今のところ玄理のみ。


 『担い手の素質を持つ者』は一般的な呪いを受け付けない反面、『力有る石』が持つ、強い意志に似たものの影響を強く受けることがあるらしい。その性質を利用し、禎理の異父兄は禎理を操り人形に仕立て上げ、貴族や冒険者達に危害を加えることで禎理が築いた信頼と評判を粉々にしようと企んだ。華琿かぐん公と手を組んだのは、おそらく、安全に潜伏する為の資金が欲しい禎理の異父兄の思惑と、王に次ぐ勢力を保持する為に目の上の瘤を排除したい華琿公の思惑が一致した為。その華琿公の思惑通り、常に公正な判断を行うが故に華琿公の邪魔になっていた因帰いんき伯は禎理によって暗殺され、低身分にも拘わらず名声を得ていた禎理の評判は地に落ちた。その上に、禎理が王を暗殺してしまったら。禎理が守ろうとしていた天楚は、粉々になってしまう。そんなことは、させない。玄理はこくんと頷くと、ずいぶんと遠くなってしまった千早の後を大慌てで追いかけた。


 と。その玄理の前を、小柄な影が遮る。その影には、確かに、見覚えがあった。


「禎理さん」


 いざ対峙してみると、小さな声しか、出てこない。身体も、意思に反して動かない。禎理が腰の短刀を抜き、鋭い光を湛えた刃を玄理の首筋に向ける間、玄理の全身はただ震えるだけだった。


「玄理!」


 千早の声に、我に返る。そうだ、禎理を止めるのが、自分の役割。いつの間にか禎理の背後に回っていた、人型になった千早に短刀を取り上げられた上で後ろから羽交い締めにされ、藻掻く禎理の身体に、玄理はぎくしゃくとした足取りで近づいた。この腕で禎理を抱き締めれば、禎理は止まる。だが。後一歩というところで、禎理の肘が千早を後ろにすっ飛ばす。あっと思う間もなく、玄理の首に禎理の小さく冷たい指が巻き付いた。息が、できない。急速に弛緩する自分の身体を、玄理はどうすることもできなかった。だが。不意に、息が戻る。地下道の冷たい床に尻餅をついたままはあはあと息をつきながら顔を上げると、禎理の瞳に優しい光が戻っているのが、確かに見えた。


「済まない」


 小さな声が、耳を打つ。次の瞬間。禎理は玄理の足下に落ちていた短刀を拾い上げるなり、禎理自身の胸にその短刀を深く刺した。


「禎理さん!」


 驚愕に、叫ぶ。玄理の前に膝をついた禎理は、それでもにこりと笑うと、短刀でえぐり出した鮮血色の塊を玄理に差し出した。その塊が持つ光は、敵の隠れ家で見た『力有る石』と同じもの。玄理は頷いて、禎理から『石』を受け取った。


 叫び出したいほどの鋭い痛みが、玄理の全身を貫く。それでも、玄理の手に乗った塊が溶けていく様を、玄理は満足と共に見ていた。これで、禎理を助けることが、できた。


 そっと顔を上げ、禎理を見る。禎理は穏やかに笑い、そして玄理の足下に頽れた。

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