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次の日。六徳は多量の羊皮紙の束と共に地下に現れた。
「これが、天楚市全体の地図」
玄理達が丸く座っている冷たい地下の図書室の床の真ん中に羊皮紙の束の幾つかを広げ並べる六徳の、節くれ立った大きな手が、刺激を与えることで光を発する『発光木』の先鋭な光に揺れる。広げられた地図には所々に赤字で×印が打ってあった。
「禎理が冒険者や貴族を襲った場所だ」
六徳の指はあくまで冷静に、地図の上の×印をなぞる。
「昨日ざっと調べさせただけだから、抜けがあるかもしれんが」
それでも、意外に多い×印に戦いてしまう。×印一つに付き一人が怪我をしたとしても、かなりの数の被害者がいる。こんな酷いことを、禎理にさせているとは。怒りを感じ、玄理は床の地図を睨んだ。
「そして、これが」
羊皮紙を並べ終えた六徳が、別の羊皮紙を広げる。
「分かっている限りの天楚の地下の様子」
三叉亭に出入りする、手先が器用な人間族である茶人族の冒険者が、天楚で暮らしている同族に聞いて回って一晩で描き上げたという、玄理の目にはまっすぐな線が複数本引かれているとしか見えない羊皮紙を、六徳は先に広げた天楚の地図の上に置いた。
「……ぴったりだな」
羊皮紙を見比べた千早が、小さく口笛を吹く。×印の近くには必ず、地下に通じる開口部があった。六徳やエクサに訊ねながら、玄理もその小さな指で地図を辿る。天楚に到着した日に玄理とエクサが禎理に襲われた場所にも、玄理が仮面の男に襲われた場所にも、近くに地下に通じる開口部があった。勿論、玄理が禎理に刺された場所の近くにも。間違いない。禎理を操る奴らは、『埋もれた都市』や『天楚大火』でできた地下の空隙を利用して、禎理に冒険者や貴族を襲わせていた。
「確かに、地下の方が隠れやすい、が」
案外盲点だったな。唸るエクサの声に、玄理はこくんと頷いた。
「じゃあ、善は急げ、だ」
その言葉と共に、千早が立ち上がる。
「丁度地下に居ないといけないんだから、さっさとそいつらを見つけてやろうぜ」
確かにそうだ。冥界で出会った禎理の、ぽろぽろと涙を零す様が、脳裏を過ぎる。禎理にこれ以上悲しい思いをさせる前に、禎理を見つけなければ。玄理は一人こくんと頷くと、一息で立ち上がった。




