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明日の風に・中世追憶編  作者: 風城国子智
第一章 遺されたもの
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1-18

 次に気が付いた時には、玄理げんりは暗い空間にいた。


 ぼうっとした視界に見えるのは、低めの天井いっぱいに伸びた、本の詰まった棚。その本棚が見渡す限り遠くまで途切れなく伸びている真ん中に、玄理は寝かされていた。


「気が付いたか?」


 静かな声に、首を動かす。がっしりとした影が、玄理の横にあった。三叉さんさ亭の主人、六徳りっとくだ。他にも、様々な形の影が見える。玄理を心配そうに見詰める、細い敏捷そうな影は、かさねのもの。少し離れたところで小さな明かりを手に、マイペースに本を漁っているように見える影はおそらくエクサだろう。小さく丸い、模糊もこの影が、温かい舌で玄理の頬を昔のようにぺろりと舐めた。


「ここは?」


 小さな声で、尋ねる。


天楚てんそ市の地下にある、天楚大学の図書館だ」


 玄理の声に答えてくれたのは、六徳より大柄な影を持った、天楚大学の金衡かねひら教授。


「ここなら、少々人や物の出入りがあってもごまかせるからな」


 教授の後から、千早ちはやの声も聞こえてきた。みんな、無事だったんだ。玄理はほっと胸を撫で下ろした。


「大勢が長期間隠れるにはまあまあな場所だ」


 そう言いながら、六徳が教授の方を見る。金衡教授は玄理を、玄理の横にいる模糊を沈痛な瞳で見詰めると、徐に口を開いた。


「もう五年以上前になるかな、この場所で遺跡が見つかったことがあった」


 天楚市の地下には、その昔、神の怒りに触れて地の底に埋められてしまったという伝説がある『埋もれた都』に関する空隙が、『天楚大火』によって生じた空隙と共に広がっている。その、『埋もれた都』らしき遺跡を、ある時、地下にある図書館を拡張しようとして掘り当ててしまった。その遺跡の壁に書かれていた嶺家れいか文字の調査を、金衡教授は禎理に依頼した。それが、全ての始まり。教授が付けた助手とのすれ違いにより遺跡の奥深くに開いた穴に落ちてしまった禎理は、模糊と共に、穴の奥に隠されていた遺跡を彷徨い、『埋もれた都』ができた原因と、その原因となった本物の天空神が天楚市の地下に封じられていたことを知った。天の輩の一人が臨時の天空神に仕立て上げられていたことも。そして、今の天空神が偽物であることを知ったが故に、禎理は天空神によって命を断たれた。それが、模糊がスレート板に書いた嶺家文字の内容。


 俄には信じられない話に、目を瞬かせる。だが。


「しかし、禎理が『天の輩』に狙われていたことは、確かなんだ」


 去年の冬、禎理は何度も天の輩に襲われた。割って入った千早の言葉と、その千早の言葉を肯定するエクサの遠い頷きに、玄理も頷かざるを得なかった。事実、模糊が書いた事実を知った玄理達をも、天の輩は殺そうとした。


「禎理は、妖精や魔物のみならず、神や魔王とも親交があった」


 そう言って、千早が六徳の方を向く。


「六徳だって、かつては魔王すうに仕えていた有力な魔物なんだぜ」


「有力、ね」


 千早の言葉に、六徳が自嘲の笑みを浮かべた。


「確かに私は、人の心を読むことができる。だかそれも、上辺だけだ。……禎理の心の奥底にあった炎を、私は読み取ることができなかった」


 六徳の言葉の中にある悲痛の響きに、そっと六徳から目を逸らす。


 その時。


「やっとあった」


 空気を無視して、エクサが玄理の腹に重い物を置く。首を上げて見ると、古そうな革表紙の本が、玄理の腹の上に乗っていた。


「死体から『動く人形』を作る方法が書かれた本」


「勝手に鎖を外したな」


 渋い顔をした教授の声を無視して、エクサは言葉を綴った。


「禎理が動いている理由は、おそらくこれだな」


「そして多分、禎理の異父兄って人が関わっている」


 押し黙ったままだった累が小さく呟いた言葉に、玄理は静かに頷いた。


「確かに」


 玄理が眠っている間に累が全てを話したのだろう、累の言葉にその場にいた全員が頷いたのが、見えた。


「蛇神の森の奥深くまで怖がらずに入ることができるのは、流浪の民だけだ」


 エクサの言葉が、暗い空間に響く。


「流浪の民だって、蛇神様を怖がっている人は多いわ」


「復讐の為なら、恐怖なんて幾らでも超えられるさ」


 反論した累の言葉をやはり無視して、エクサはそう、嘯くように言った。


「とにかく、禎理の件に関しては、その異父兄って奴が関わっている可能性が一番高い、ってことだな」


 累とエクサ、二人の言葉を千早が纏める。千早の言葉に、六徳が口の端を上げたのが、玄理の瞳に映った。そして。


「禎理の異父兄の件は、こちらでも調べられるかもしれないな」


 次の六徳の言葉に、はっとして六徳を見詰める。


「期待はするなよ」


 そう言って、六徳は腰を上げた。


「三叉亭も無くなってしまったしな」


 続く六徳の言葉を、玄理は悲しく聞いていた。三叉亭と六徳のことも、禎理から聞いている。六徳が三叉亭をどれほど大切にしていたかも、分かるつもりだ。玄理の顔が歪んだのが見えたのか、六徳は玄理を見てにこりと笑った。


「ま、壊れた物はまた作れば良いだけの話だ」


 三叉亭が入っている建物が前触れも無く崩れ落ちてしまった件については、これまで六徳が拒絶してきた冒険者の祟りだとか、エクサが魔法を暴発させた所為だとか、はたまた正気を失った禎理の所為だとか、天楚市内では色々と噂されている。小馬鹿にしたようなエクサの口調に、玄理は少しだけ笑った。それでも、六徳は同じ一柳ひとつやなぎ町に臨時の冒険者宿を開くつもりであるらしい。続けて発せられた教授の言葉に、玄理は改めて六徳を見直した。そして。


「玄理達は、当分ここに居なさい」


 天空神と天の輩は、事実を知ってしまった玄理達を今も追っている。当分ここに身を隠した方が良い。六徳の言葉に、玄理も累も頷いた。

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