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そして。
三叉亭に戻った玄理達を待っていたのは、怒りと殺気に満ちた空間。先に三叉亭に到着していた金衡教授を取り囲んで、エクサと千早、そして六徳が難しい顔をしている。金衡教授が持っているのは、模糊が書いた文字が並ぶスレート板。そのスレート板を見返す度に歪む金衡教授の顔の影に、玄理が感じたのは、恐怖。
「玄理!」
三叉亭の雰囲気に飲まれ、扉の横から動けなくなった玄理に、エクサの喚くような声が降ってくる。
「玄理! 禎理は」
「言うなエクサ!」
カウンターの椅子から飛び上がり、玄理の前に立ったエクサの腕に、千早の黒い腕が絡むのが、見えた。そして。
「禎理は、殺されたんだ!」
エクサの口を塞ごうとする千早の腕を振り切って、エクサが喚く。
「天空神が偽物だって知った所為で!」
次の瞬間。エクサの声を大きく上回る大音声に耳が劈かれる。ふわりと身体が浮いたと思った瞬間、割れた天井が玄理の上に降ってきた。
「玄理!」
「伏せろっ!」
遠く聞こえる声は、エクサのものか六徳のものか。隣で身動きが取れずにいた累を咄嗟に抱き締め、玄理は崩れた三叉亭の床に倒れ伏した。床の欠片と共に、身体が下へ落ちていくのが分かる。瞳を動かして上を見ると、もうもうと立つ埃と細かくなった壁材の向こうに、大きな翼が見えた。
「天の輩!」
叫び声は、喉の中で消える。玄理を見詰めた、天空神の眷属である天の輩が、手にしている大ぶりな槍の穂先を玄理の方へ突き出す。避けることは、できない。玄理はただ呆然と、自分に向かう鈍い光を見詰めていた。
「玄理! 累!」
不意に、玄理に向かっていた鈍い光が、周りを照らした高圧な光に掻き消される。エクサの魔法だ。天の輩に黒犬が飛びかかる様子が、光の中に見えた。次の瞬間。衝撃が、玄理の全身を走る。
「大丈夫か?」
エクサの声が、遠くに聞こえる。腕に抱いたままの、累の身体の細さと温かさを感じながら、玄理は静かに目を閉じた。




