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明日の風に・中世追憶編  作者: 風城国子智
第一章 遺されたもの
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1-17

 そして。


 三叉さんさ亭に戻った玄理げんり達を待っていたのは、怒りと殺気に満ちた空間。先に三叉亭に到着していた金衡かねひら教授を取り囲んで、エクサと千早ちはや、そして六徳りっとくが難しい顔をしている。金衡教授が持っているのは、模糊もこが書いた文字が並ぶスレート板。そのスレート板を見返す度に歪む金衡教授の顔の影に、玄理が感じたのは、恐怖。


「玄理!」


 三叉亭の雰囲気に飲まれ、扉の横から動けなくなった玄理に、エクサの喚くような声が降ってくる。


「玄理! 禎理ていりは」


「言うなエクサ!」


 カウンターの椅子から飛び上がり、玄理の前に立ったエクサの腕に、千早の黒い腕が絡むのが、見えた。そして。


「禎理は、殺されたんだ!」


 エクサの口を塞ごうとする千早の腕を振り切って、エクサが喚く。


「天空神が偽物だって知った所為で!」


 次の瞬間。エクサの声を大きく上回る大音声に耳が劈かれる。ふわりと身体が浮いたと思った瞬間、割れた天井が玄理の上に降ってきた。


「玄理!」


「伏せろっ!」


 遠く聞こえる声は、エクサのものか六徳のものか。隣で身動きが取れずにいた累を咄嗟に抱き締め、玄理は崩れた三叉亭の床に倒れ伏した。床の欠片と共に、身体が下へ落ちていくのが分かる。瞳を動かして上を見ると、もうもうと立つ埃と細かくなった壁材の向こうに、大きな翼が見えた。


「天の輩!」


 叫び声は、喉の中で消える。玄理を見詰めた、天空神の眷属である天の輩が、手にしている大ぶりな槍の穂先を玄理の方へ突き出す。避けることは、できない。玄理はただ呆然と、自分に向かう鈍い光を見詰めていた。


「玄理! かさね!」


 不意に、玄理に向かっていた鈍い光が、周りを照らした高圧な光に掻き消される。エクサの魔法だ。天の輩に黒犬が飛びかかる様子が、光の中に見えた。次の瞬間。衝撃が、玄理の全身を走る。


「大丈夫か?」


 エクサの声が、遠くに聞こえる。腕に抱いたままの、累の身体の細さと温かさを感じながら、玄理は静かに目を閉じた。

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