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仮面の男に襲われたことも、仮面の下の男の顔が禎理にそっくりだったことも、エクサや他の人々には黙っておこうと心に決めた。
「玄理! その怪我!」
だがしかし、目聡さではエクサに敵わない。先に三叉亭に辿り着いていたエクサに左手の小さな怪我を見咎められ、そして詰め寄られる形で、玄理は仮面の男に襲われたことを口にした。
「その男、どっちへ逃げた?」
玄理の話を聞いた六徳が、すぐにテーブル席でエールをあおっていた三人組に指示を出す。
「捕まえて来い!」
六徳の鋭い声に弾かれるように、三人組が三叉亭を飛び出す。しかしすぐに、全身を黒布で覆った青年チユだけが戻ってきた。
「これが、落ちていた」
アルバとエックが付近を捜索しているが。そう言いながら、チユがカウンターに割れた仮面の半分を置く。
「昨日俺と玄理を襲った奴の仮面だ」
仮面を一瞥して、エクサが言葉を吐く。そしてエクサは、何時に無く鋭い瞳で玄理を見詰めた。
「顔を、見たのか?」
その問いに、決心した通りに首を横に振る。昨日玄理達を襲った人では無く、仮面の男が禎理だったら。それならば、禎理は死んでいないことになる。僅かな希望が、玄理の口を塞いでいた。
「君は? 累」
同じ問いを、エクサが累に繰り返す。累も、玄理と同じ想いを抱いているのだろう。示し合わせたわけでもないのに、累も首を横に振った。しかしエルミの丘では常に人の感情を読むのが得意だったエクサのことだ。何か感づいているに違いない。玄理の推測通り、エクサは疑いの目で玄理と累を見詰め、そして首を横に振った。
「まあいいや」
そしてテーブル席に一人座り小さなパイを頬張っていた少年の方を向く。
「こいつらが、禎理の名付け子だ。五次」
「やっと紹介してもらえた」
忘れられていると思っていた。軽い少年の声に、少しだけ心が緩む。
「それでは、行きましょう」
そう言って、五次と呼ばれた少年は立ち上がり、玄理と累の肩を叩いた。立ち上がると、五次は玄理よりも背が高く、そして玄理より少し大人であるように見えた。美しい刺繍が施された剣帯で腰に吊り下げられている剣は、細くきらめいている。
「兄上が待ってます」
「五次は、天楚の貴族、王の近衛騎士の一人だ」
戸惑いながら六徳の方を見た玄理に、六徳が表情を変えずに説明する。
「五次の兄は、天楚でも指折りの貴族、六角公須臾だ」
六徳の言葉を継ぐように、エクサはそう言ってカウンターの椅子から立ち上がった。そのエクサを、五次の細い腕が制する。
「あ、エクサは連れて来るなって、兄上から言われているから」
エクサは。五次の言葉に、無意識に溜息をつく。エクサはこの場所でも、この人や須臾という名の人にも、多大な迷惑を掛けているようだ。それがエクサの性だと、ボルツァーノ師匠は言っていたが。おそらく禎理にも多大な迷惑を掛けていたに違いない。累や五次と共に三叉亭を出ながら、玄理はもう一度溜息をついた。




