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第6話 前首相収賄事件

 今月8日の夜7時。ダイニングのテレビが歌番組から緊急ニュースに切り替わり、アレクサンダー・ルッツ前首相逮捕を報じた。私は正直、ああそうなんだ、と感じた。何度か合同議員事務所や保守党本部で会ったけれど、印象のいい人ではなかった。秘書として応対するママへのセクハラ発言を聞いたことがあるし、パパのことも党の後輩だからって完全に見下していた。


 ルッツ前首相は1990年の第1回国議会議員総選挙で当選した議員の1人で、2016年から首相を務めた。在職中の2018年3月に財務局長の脱税に関する任命責任を追求されてヴァレンシュタイン史上初の不信任決議案が可決、それを受けて秋に国議会を解散した。その選挙では保守党が過半数を維持したものの、ルッツ前首相は落選した。比例代表制が導入されていないため、ヴァレンシュタインではこのように大物議員でも落選することがある。


 今回の逮捕容疑は収賄。2024年開業を予定しているヨーロッパ高速国際鉄道ヴァレンシュタイン駅の建設地選定の際、ある海外投資ファンドから賄賂を受け取っていたと報じられた。ニュースによれば、これから余罪を追求していくのだとか。在職中の支持率も決して高くはなかった。パパが聞いた噂だと、叩けば埃はいっぱい出てくるらしい。最低。心の底から大嫌い。こういう人がいるから国議会議員やその家族が誤解されてしまう。この誤解が人々の政治への関心や期待を引き下げている原因なのかもしれない。


 人のクズとも言えるルッツ前首相は、パパと同じ保守党の議員だった。そしてパパは、初当選する2010年まではルッツ前首相の秘書をしていた。だからSNSに、ルッツ前首相逮捕について私へ意見を求める投稿が殺到した。別に私はパパの支持層を引き継ぐわけではないから、言葉に注意しつつルッツ前首相を公に批判している。私にパパや現職議員たちを無批判に擁護するつもりがないということは、少なくともフォロワーには充分に伝えている。


 とはいえ、世襲議員の悪いイメージを私に持っている人もいないとは言い切れない。特に革新党の支持層は現政権に不満を持つ人が多いから、身内に与党である保守党の議員がいる私には、この点で相性が悪い。しかも選挙直前のこのタイミングでパパと懇意にしていたルッツ前首相の不祥事が発覚したとあれば、他の候補者と同じかそれ以上に私のイメージ低下は免れられない。私を陥れる策略なのではないかと思わず勘繰ってしまう。


 私は国議会議員を、所属する政党の一員ではなく個人として見ていきたいし、私自身のこともそう見てほしい。ルッツ前首相のことは無能だと思っているしパパたちの政策も好きではないけれど、だからといって保守党に所属する議員みんなと喧嘩したいわけではない。それに私の考え方と革新党の方針が合わないこともある。新興党だって少し支持しにくい政策を掲げているだけで、彼らの理論がまったく理解できないわけでもない。


 なら無所属で立候補すればいい、と言われると思う。実は私が革新党から出馬する理由は、革新党支持層の票狙いや党幹部の応援演説による注目度上昇と同時に、政党活動金の補助を受けるため。選挙管理委員会に認められた国政団体に所属して出馬する候補者には、その国政団体が政党活動金による補助を行えると法律で定められている。だから現在の国議会には、当選時に無所属だった議員はいない。1人だけ、当選が決まった翌日に保守党を脱退して無所属になった。


 その議員があまりに早く離党したせいで、政党と選挙の関係が問題になった。私は今のところ、当選後も革新党に在籍するつもりでいる。でもどうしても革新党と意見が合わないと感じたときは、離党することもひとつの選択肢なのかもしれない。私はできれば、政党などのグループ単位ではなく個人として付き合っていきたいけれど、政治という大人の世界ではきっと不可能なのだろう。だって学生にすら仲良しグループ同士の争いがあるということを、私はよく知っているから。

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