表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第4話 諸外国との外交問題

 世界史に初めてヴァレンシュタイン公国の名が登場するのは1865年のこと。ヴァレンシュタイン家がドイツ系貴族から枝分かれして、オーデル川河口一帯の土地を治め始めた。治世は長く続かず、1939年のドイツ軍によるポーランド侵攻に巻き込まれて以降は地図から姿を消した。私はナチスによる破壊と殺戮を目の当たりにした民間人の手記を、平和祈念館への社会科見学で見たことがある。


 終戦後もヴァレンシュタイン公国の主権は回復されず、1990年に東西ドイツが再統一されたタイミングでようやく分離独立を果たした。その間にヴァレンシュタインが被った損害は計り知れない。ドイツ連邦共和国への戦後賠償要求を終了させると国務局長会議が何度か発表したけれど、その度に国議会や戦没者遺族から強い抗議を受けて取り下げている。


 もう一方の隣国、ポーランド共和国との間にも大きな問題がある。ヴァレンシュタイン公国憲法第91条では国防補助のために外国軍の国内軍事活動を認めていて、この外国軍というのは事実上ポーランド軍のことを指す。ヴァレンシュタイン国民の多くは外国人が国防のためとはいえ優遇措置をとられていることに反感があるし、ポーランド軍側も祖国ではない場所でなぜ命をかけて戦わなければいけないのか疑問に思っている兵士が多いらしい。このことから、ヴァレンシュタインは未だに軍事面では独立できていないとされている。


 ヨーロッパ以外からは新型コロナウイルス感染症が流行するまで中華人民共和国やシンガポール共和国の富裕層がよく観光旅行に来ていた。特に中国人の金遣いのよさは評判で、彼らのお金がヴァレンシュタイン経済を動かしているとまで言われた。パンデミックに伴う国境封鎖は観光立国であるヴァレンシュタインの分離独立以来最大の危機であり、この危機はアジア方面の観光客が帰ってこない現在も継続している。


 それから日本国との関係について。私が生まれる前、ヴァレンシュタインの分離独立時には世界中の国々が支援の手を差し伸べてくれて、アジアからは日本が最も手厚く国家運営や法整備のノウハウなどを指導してくれたと教わった。そのためヴァレンシュタイン公国憲法は日本の憲法に似ている。東日本大震災発生時にはそれらの恩返しとして、官民一体となって小国ながらもできる限りの援助を行った。


 国連やEUの中でも強い影響力を持つと言えないヴァレンシュタインは、しばしばその票を巡って大国同士の争いに巻き込まれる。例えば2017年の国連総会で採択された核兵器禁止条約について、革新党と新興党の議員は賛成多数だったにも関わらず、国議会の過半数を占める保守党の全議員がEU諸国との足並みを揃えるためとして反対し、署名を見送った。もちろんパパも反対した。そのため欧州のほとんどの国々と同じように、現在でもヴァレンシュタインは核兵器禁止条約に批准していない。


 私は新興党ならヴァレンシュタインの核武装化を主張すると考えていたから、核兵器禁止条約署名に賛成したことが意外だった。パパに聞いたところ新興党はユダヤ人からの支持が強く、軍事面の強化を主張する理由も大量のユダヤ人が虐殺されたり、ユダヤ人であるアインシュタインの相対性理論を活用した核兵器を生んだりした戦争に、今後ヴァレンシュタインが巻き込まれないようにするためとのことらしい。将来的な核兵器全廃へ向けた条約に新興党が賛成することは国議会情勢に詳しい人なら誰でも予想できる、とまで言われた。


 私も核兵器禁止条約には賛成したい。ヴァレンシュタインは有事の際、ポーランド軍が守ってくれることにはなっているけれど、仮に攻めてくるのがロシア軍やアメリカ軍だったとして、本当にポーランド軍が身を挺して守ってくれるだろうか。新興党が言うように自国の防衛は自国の力で、つまり既存の国家警察によって賄うべきだと思う。最近は核兵器の使用を示唆するだけでも国際社会から批判されるようになってきているから、核攻撃を受ける確率は低いという人もいる。けれど、最近の東欧を見るに、そう考えるのは少し見通しが甘すぎるのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ