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18歳女子が国議会議員を目指す話  作者: 川里隼生


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12/12

最終話 総選挙公示

「こんばんは」

「こんばんは。イブニング・ヘッドラインのお時間です。早速、ニュースに移りましょう。公国の今後4年間の未来を決める、国議会議員総選挙が今日から始まりました」

「ルッツ前首相の収賄など政治と金の問題が解決していない中で、所得税率引き上げによる社会保障拡充を掲げる保守党。新しく被選挙権が与えられた18歳から24歳の候補者を多数擁立し、若い世代からの支持を得ようとする革新党。そしてポーランド軍を排し、軍事的独立を目指す新興党。各候補者の声をまとめました」


「初めまして、リリィ・ハイゼンベルクです!」

 リリィの選挙演説は、旧ヴァレンシュタイン大学跡の正門前で始まった。政治家たちが繰り広げた駆け引きの象徴のように、この建物は未だここに取り残されている。候補者中最も若い18歳の少女が何を語るのか、国外のメディアからも注目を集めた。革新党代表による応援演説は金曜日を予定しているのだが、初日ということもあってかリリィ1人の周りには大勢の人々が集まっていた。


 リリィはまず、投票することの重要性を群衆に訴えた。続いてこう切り出した。

「ミュラー教育研究局長の過去の答弁によれば、ヴァレンシュタインでは世界で活躍できる人材をつくるための教育に力を入れているそうです。実際、学校卒業後にドイツやイギリスへ移住する方は多く、人口減少の原因になっています。皆さんはこれを喜ばしいことだと言っていられますか?」


 リリィによれば若者が世界へ羽ばたいていっているのは海外志向が強いからではなく、祖国に住み、祖国で働きたいと思うほどの魅力がヴァレンシュタインに備わっていないためだという。その魅力を引き出すには最低賃金底上げと、育児や介護とも両立可能な労働環境の構築が必要不可欠であると論じた。政治の質を保つためとして議員報酬適正化には反対の立場を表明した。


 人口減少は国力の低下にも直結する。ロシアの脅威も差し迫る昨今、これまで以上にポーランドなどの周辺諸国へ協力を求めるべきか、それとも軍拡に踏み切り、独立性を強化するべきか。リリィは国際社会において難しい立場を強いられているヴァレンシュタインの現在について、欧州各国との足並みを揃えるためという理由で核兵器禁止条約へ署名していないことを非難した。核兵器はヴァレンシュタインやヨーロッパを守る騎士ではなく、全人類を破滅の炎に追いやらんとする悪魔だと有権者に呼びかけた。


 そしてリリィは、背後にある大学跡をバスガイドのように右手で指し示しながら、マイクを通してこう話した。

「ここに観光施設は必要ありません。軍事施設もいりません。必要なのは保育所、介護施設、診療所、それに図書館です。巨大な複合施設を建てましょう。どうせなら体育館やカフェテリア、それにライブハウスも作って、4万人が集まる屋根付きの公園にしようではありませんか!」


 演説は続く。リリィの瞳は将来の夢を語る大学生のように輝いていた。

「この複合施設は国が、無料ではないにせよ責任を持って運営させていただきます。しかし、それにあたって皆さんに新たな税負担を要求するつもりはありません。あるランニングコストを民営化しようと考えています。さっきこの道を通り過ぎた路線バスと、遅れていなければちょうど今この下を通っているはずの地下鉄を、それぞれ別の会社として民営化させます。別の会社にする理由は……」


 演説を聞く人々の反応は様々だった。黙って聞き入る者、リリィが描く未来に夢中になる者、冷ややかな目で遠巻きに聞く者、ただの絵空事だと笑う者、全く的外れだと記者に向かって怒る者。共通していたのは、誰もが数秒は立ち止まってリリィの姿を眺めていたことだ。あそこにいるのが最年少候補者か、という程度の反応なのかもしれない。だが、彼女が候補者になる前から繰り返し主張してきたことは無駄ではなかったようだ。SNSを使った情報発信の影響により、今回の選挙を自分の問題として認識している有権者の数が多い。選挙権の行使を実行する者の割合、つまり投票率は、前回の選挙を大きく上回りそうだ。

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