エピローグ
「うわー、綺麗だねー」
「ミラ、あまり近づきすぎるな。落ちるぞ」
自由に動き回れるようになった私は、ルヴァと湖に来ていた。
水面に光が当たって輝く様が、とても綺麗だ。
わくわくして近づくと、すぐにルヴァから注意される。
「ルヴァ~……私は小さな子供じゃないんだよ?」
「分かっている。だが、君はすぐにあっちにふらふら、こっちにふらふらと……目が離せない」
「でも、本当に綺麗なんだもん」
仕方ないなと苦笑して、ルヴァが私の後ろに立った。
そのまま、背後から抱きしめられる。
「これでよし」
「はい!?」
「僕がこうしていれば、君がうっかり落ちそうになっても安心だろう」
「え? 安心だけど……え? なんかおかしくない?」
「おかしくない」
きっぱりと言い切られて振り向けば、ルヴァは笑っている。
「……君にはもっと、色々なものを見せてやる」
「うん、一緒に見ようね」
返事をするとルヴァもうん、と頷いた。
でも、私ばかり色々してもらってもなぁ~。
「ルヴァはなにかしたいことない? 私に遠慮しないで、言ってね!」
「僕がしたいこと? 別に、君といられれば……――あ」
ひとつあった、とルヴァが呟く。
「なになに? どんなこと?」
「だが、これは……」
「難しいこと?」
「難しい、というか……君の協力がいる、というか……」
私の協力?
それなら、一も二もなく頷くに決まっている。
「教えて! なにをしたらいい?」
「いや、やっぱり……」
「やめるとか言わないでね? ルヴァが私に色んなものを見せてくれるように、私だってルヴァを喜ばせたいの。どーんと頼って!」
「――っ」
後ろから抱きついていた腕が外される。
おや、と思う間に肩を引き寄せられ、ルヴァと向き合う形になる。
「君に、こうして触れることができたら……ずっと、したいことがあった」
「うん?」
「今まで、僕を助けてくれてありがとう」
意外な言葉だ。
助けられてきたのは、私の方だろうに。
「ルヴァ、逆だよ」
「いいや、違う。僕はずっと、君の存在に救われてきた。……だからこそ、だ。きちんと伝えたい――どうか、これからも僕のそばにいてくれ。叶うなら……僕の隣で、見守っていてほしい」
「そんなの当たり前だよ。頼まれなくても、ルヴァが嫌っていうまでは、ずーっといるよ」
私が笑うと、ルヴァは頬を染めた。
「言ったな? 僕はしっかり聞いたぞ。今さら撤回は聞かない」
撤回なんてするわけないと笑おうとした私だけど、ルヴァの手が頬に伸びてきたので思わず固まる。
ほんのりと頬を染めたルヴァは、嬉しそうに笑って顔を寄せてきた。
「それなら、一生となりにいてくれ」
耳をくすぐる囁きの後、ルヴァの唇が私のものに重なった。
――きっと、未来は明るく穏やかで……希望に満ちているに違いない。
そんな予感を胸に、返事のかわりに私は目を閉じたのだった。




