70話 ここにいるのが、私の自由
ルヴァ素敵 かっこかわいい 尊いよ
うん。我ながらいい句が出来た。
渾身の作だと思う。
これが辞世の句に……。
「……ラ……! ――ろ……!」
あれ?
なんか、聞こえる。
あの世?
あの世って、こんなに騒々しい――。
「ミラ!」
「っ、あ、あれ?」
目を開けたら、ルヴァに抱き起こされていた。
背景にはキラキラした粉が振っていて、まるで一枚の絵みたいだ。
「ルヴァ……」
「ミラ、大丈夫か?」
「うん、それよりこれ……」
(なんだろ、これ、鏡の粉末? 悪いモノって感じはしないし、綺麗だけど)
手を伸ばして、はたと気付く。
「あれ? ヒビが……」
体に入っていたヒビが消えている。
「ミラ様! お体が……!」
ティアの声。
駆け寄ってくれる彼女に、うんと頷く。
「そうだね、ヒビが」
「いいえ! お体が……実体化しています!」
「え? あ、本当だ」
半透明だった私の体は。手をかざしても向こう側が確認できる人外仕様だった。
だけど、今は違う。
(ちゃんと、質量がある……!)
消えると思ったのに、こうして存在しているって事は……。
「ルヴァ、私……」
「ミラ!」
私がなにか言うより先に、満面の笑みを浮かべたルヴァが私を抱き上げた。
そのまま、ダンスでも踊るみたいにくるくると回り出す。
ティアは止めるどころか、ニコニコと笑って「おめでとうございます!」と祝福の言葉。
突っ込んだのは――セレスだった。
「なによコレ!」
「……あ、髪チリチリ」
「誰のせいよ! だいたい、殺虫剤ってどういうこと! 馬鹿にしてるの!?」
「いや、だって最強だし」
あれがなきゃ、私はGを倒せないから。
それに、髪だって私たちが邪霊を退治しなかったらもっと酷いことになっていただろうし。
「全身瘴魔になるところだったんだから、わーわー叫ばない」
スィーヤがパチンと指を鳴らすと、セレスはたちまち魔法で拘束された。
「ちょっと、これは……!」
「邪霊の依り代になったんだ。色々調べることがあるんだから、逃がすわけないだろう」
「ふざけないで、わたくしはルヴァイドに……~~いつまでまわってんのよあんたたち!」
淑女の仮面を投げ捨てて、セレスが怒鳴るけれど、まわってるのはルヴァだけだから。
そして、そのルヴァは話し聞いてないから。キラッキラの笑顔で人の話聞いてないから!
「信じられない! こんなの、こんなのあり得ない! ――こんなルヴァイド!」
満面の笑みのルヴァを見て、セレスは顔をくしゃくしゃにして叫ぶ。
「いや、うちのルヴァは笑うとカワイイんだよ」
あり得ないとは聞き捨てならないと言い返すと、セレスはくわっと目を見開いた。
「解釈違いよ!!」
う、うわぁ……筋金入りの闇属性……。
「おめでたい雰囲気をぶち壊す勢いでうるさいな。だれかー、この重要参考人、連行しておいて-」
スィーヤが雑に魔術士にセレスを押しつけた。
早く連れて行けと合図したので、セレスは広間から連れ出される。
静かになると、呆気にとられている他の人たちは無視して、スィーヤは私たちに微笑んだ。
「おめでとうございます、鏡の君。貴方は今、精霊として目覚めました」
「え……」
「実体化も完璧ですし、なにより揺り籠がなくても大丈夫でしょう?」
「それは、そうだけど……でもあの鏡は、ルヴァのお母さんの……」
「いや……大鏡は役目を終えたんだ。だから、母も本望だろう。本当に託したかった存在は、きちんと僕の腕の中にいるんだから」
形見の大鏡に優しい視線を向けたルヴァは、そう言って確かめるように私を抱きしめる。
スィーヤも頷くと「これでもう、自由ですよ」と私に言った。
守手であるルヴァの助けが必要なくなった今、離れても消えたりしない。
だから、どこへ行くのも私の自由。
「自由……」
繰り返すように呟いたルヴァ。
その顔は不安そうだ。
「いいことだよ。だって、ルヴァの負担が減るでしょ?」
「――っ」
そう続けると、先ほどのテンションがウソのようにルヴァが黙る。
(ああ、もう、なんでそんな顔をするかなぁ!)
あの時、ちゃんと言ったのに。
ルヴァは忘れたのか。それとも、私の気が変わるとおもったのか。
どちらにせよ、ここはもう一度、はっきりと伝えておこう。
「ルヴァ」
顔を上げたルヴァに、私は笑顔で告げて――。
「私は自由。でもね――どこにも行かないよ!」
思い切り、抱きついた。




