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68話 一度あることは二度ある

「なにを言っているの」


 セレスが呆れたような口調で言った。

 でも、自分以外がみんな真剣な顔をしていると気付くと「嫌だわ」と眉をひそめた。


「弱体化したわりに、しぶといのね。この場にいる者を洗脳する気?」

「――しぶといのは、そっちだよ。まさか、人間の体に入り込むなんて禁じ手を使うとは……私の目を警戒したってところか」

「なんですって? まさか、その邪霊の言葉を信じると?」

 

 私をにらんでいたセレスは、スィーヤの言葉を聞くと苛立ったように彼を問い質す。

 すると、スィーヤは肩をすくめる。

 そして、すっと表情を改めるとセレスに言い放った。


「邪霊はどちらかな」

「なっ! わたくしの話を、きちんと聞いていらしたの? わたくしは――」

「たしかに、私がかつて見た未来は、絶望的なものだった。国守の精霊は代替わりの精霊を生み出したけれど……代替わりの精霊は生まれることなく、弱った国守の精霊と共に邪霊に食われてしまい……国は瘴魔に荒らされ乱れていく……――何度見ても変わらない。それを止める鍵になるのが、ティアだった。だから、私は来たるべき日に備えティアを教育しようとしたが……ある屋敷にお邪魔したとき、私には違う未来が見えた」


 スィーヤは私とルヴァを見ると、笑った。


「希望は潰えていなかった。国守の精霊が生んだ、新しい命は――歪められるはずだった幼子の運命を救い、共に新しい未来へ進んでいた」


 私は自分が邪霊候補だと思ってたけど、本当の本当に邪霊ではなかったらしい。

 生まれることなく消えるはずだった、精霊……そりゃ、ゲームにも出て来ないから分からないよね!

 

 私は国守とか難しいことは分からんけど、イレギュラーが起こってルヴァが助かった。

 それくらいは理解出来る。なら、もう、それでいい。

 その事実があれば充分。


 だけど、スィーヤはそれで済まなかったようだ。

 淡々と、セレスを詰めている。

 

「――セレス・フォン・メイベルン嬢。あなたが先ほどから邪霊と呼ぶ、この方は、正しく未来を託された次代の精霊……国守となるべき存在がいれば、邪霊は完全復活できないからこそ、必ず排除しようと近づいてくるだろうと警戒していたら……まさか、人の体を乗っ取り、死んだ魂と混ざり合うことで入り込んでくるとは――盲点だったよ」

「……ふざけないで。わたくしは、国守の精霊……人々が神と呼ぶような存在に見いだされ救ってくれと頼まれた救世主よ。神と同化して、選ばれた存在なのよ? それを――」

「それが、邪霊の手だったんだろう。なにも知らないまま、利用されて」

「ウソよ!」


 セレスが、声を荒らげた。


「たしかに、私には前世の記憶があるわ! でも、それはみんなを救うためよ! 私は知っているんだから! ルヴァイドは、本当は親の愛情を求めていた寂しがりで、父親に大事にされるティアに嫉妬していたのよ! それを、父に咎められたから憎悪にかわり、鏡に宿った邪霊にいいように扱われるの! そこから抜け出せるように、私は手を差し伸べてあげたくて、力を尽くした! 分かるでしょう!」


 最後の言葉は、ルヴァに向けてのものだった。

 つまり、セレスのあれやこれやは……全部、ルヴァを助けるためだったと。


「分かるでしょって……セレス、ルヴァを追い込んでただけじゃん」

「うるさい邪霊!」

「うるさいのはそちらだ、メイベルン。……ミラは、邪霊ではない。それは、彼女に命を救われて、今日まで共にあった、僕が一番よく知っている。言ったはずだぞ、セレス・フォン・メイベルン、お前の妄言は聞くに堪えないと。これ以上、ミラを侮辱するな……!」


 ルヴァが怒鳴ると、セレスは引きつったような笑い顔になった。


「ルヴァイド? まだ、洗脳が」

「正気に戻るべきなのは、お前の方だろう」

「――っ、わたくしは、神に頼まれただけよ! この世界を救ってくれと!」

「――それこそが、邪霊の甘言だったんだろう」


 ルヴァが冷ややかに言い捨てた。


「現に、ミラはお前に嫌な気配を感じていた。そして、お前は瘴魔を吸収していた。お前が探す邪霊というのは、お前の中にいる存在だ」

「あなたは真の聖なる乙女ではない……邪霊の依り代だ」


 ルヴァと、スィーヤ。

 ふたりの言葉に、セレスは目を見開いた。

 そして、周りの目が自分に向いていること、そのどれもが疑惑の視線であることに気付くと首を横に振る。


「メイベルン様、どうか落ち着いて、皆様のお話を聞いて下さい」


 ティアがなだめるように声をかけると、セレスは伸ばされた手をはね除けようとして……バチバチと、何かが爆ぜるような音がする。


「……確定、だね」


 スィーヤは、ティアをセレスから引き離すと背後に庇った。


「ティアの力は、浄化……邪霊が流す瘴気を消し去る力がある。だからこそ、邪霊はティアに触れることはできない。……今の、あなたのように」


 真っ赤になった手を押さえ、セレスは顔を歪めた。


「ウソよ、ウソだわ――そうよ、こんなの全部、ウソ。全部、全部……」


 俯いて、何度も何度も頭を振って……それから。


「全部、コレが悪いのよ!」


 顔を上げたセレスは、大声で叫んである物に向かって行った。

 彼女が目を付けたのは。


「私の揺り籠!?」


 手鏡が壊れた私にとって、存在の安定という意味では必要不可欠な揺り籠。

 だから、こんな場所にわざわざ運び込まれていたのだけれど――。


「こんなものがあるから、みんなの目が覚めないのよ!」


 セレスは素手で、大鏡をたたき割った。


「ちょ、一度ならず二度までも、パリーンやる!?」

「黙れ、消えろ邪霊め!」

「だから、違うって――って、ああっ……!」


 素手で鏡をかち割っておいて、傷ひとつないセレスに罵られる。

 だけど、抗議は途中で終わった。

 鏡と同様に、私の体にもヒビが入ってしまったのだ。


 さすがにこれはマズいと自分でも分かる。


「ミラ!」

「――っ」


 ルヴァが悲鳴のような声で私を呼ぶ。

 大丈夫、心配しないで。

 そう返すには、時間が無い。


 ――だって、セレスが私たちの前で変身をはじめたから。

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