65話 悪役令嬢オンステージ
スィーヤに案内されたのは、広間……奥には段差が作られていて、高い位置に立派な椅子が設置されている。
(アレって、玉座だよね?)
ここは謁見の間なのか?
(でも、手前の鏡は……)
玉座の段差手前には、大きな鏡――あれは、私の揺り籠だ。
ルーカッセン公爵邸にあるはずの大鏡が、なぜお城にあるのだろうと思ったが、疑問はすぐに解けた。
ここに集まっている人たちを見れば、一目瞭然だ。
はじめに、周りの人たちとは一線を画すように壇上にいるのが国王夫妻。
神妙な顔をして、玉座から立ち上がりこっちを見ている。
そして、周りには騎士やら魔術士やらと、護衛の人たち。
悠然としているセレス。
後は……久しぶりに見たルーカッセン公爵が、ティアに近づこうとしたのか……セバスチャンさんに邪魔されている。
セバスチャンさんが城にいるってことは、彼の判断で大鏡を運び込んだに違いない。
「お連れいたしました」
スィーヤが声を張ると、全員の視線が集まった。
「ミラ様……!」
ティアが小さな声を上げる。
ちょいちょいと手を振れば、また目を潤ませて何度も頷いた。
その横で、セバスチャンさんも驚いた顔をしている。
「陛下! あれは罪人ですぞ! この場に相応しくない! ――メイベルン嬢の言うとおりならば、浄化の力を持つティアを騙したのは、ルヴァイドです! この場どころか、生かしておく価値すらない!」
私たちの感動の再会を邪魔したのは、嫌そうな感じを隠しもしないルーカッセン公爵の大声だった。
奴は、スィーヤの後ろにいるルヴァを指さして、罪人だと言った。
生かしておく価値すらないなんて……。
(そんなの、アンタが決めることじゃない)
久しぶりに見たのに、最初っからフルスロットルで腹が立つ奴だ。
苛立っているのは多分、牢でスィーヤも怒っていたように、ティアに変な言いがかりを付けられているせいでもあるだろうが……。
なぜ、その怒りをルヴァに向けるのか……さっぱり分からない。
まずは、セレスの言動を咎めたり諫めたりするのが筋だろうに、どうして事実確認も放棄して、突然ルヴァを引き合いに出しキレ散らかすのか……。
こんな無茶苦茶なことを言われても、国王だって困るだろうと思ったが……。
「まぁ、ルーカッセン公爵。仮にもあなたのご子息でしょう?」
「メイベルン嬢、アレは魔女が邪霊と契約して授かった紛い物だ! 私に怪しい術をかけ公爵家から追い払った忌まわしき精霊に操られているだけの、肉の塊に過ぎん!」
まるでこの場の主のごとく、堂々とした態度で答えたのはセレスだった。
(え――なんで?)
そもそも、お前の言い掛かりが発端でややこしいことになってきたのに。
私は内心そう思った。
だが、公爵はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに得意げな顔で、ペラペラと話す。
いかにして、自分が追いやられた被害者になったのかを。
(あー……ティアのためじゃないんだ)
きっと自分のために怒ったんだ。
昔可愛がっていた子に不名誉な噂が立ったら、自分が迷惑だからって……。
スィーヤの怒りと全然違う、公爵のはただの自己保身だ。
(……なんにも変わってない……ある意味ブレないクソオッサンだわ~……)
だけど、忘れたんだろうか?
コイツのやらかしは、すでに上の耳に入っている。
だから、接近禁止令が出たのに。
それとも、お城に呼ばれて王さまたちと顔を合わせる機会を得られた――つまり、正義は自分にあると思ったんだろうか?
でも、公爵の言い方には私怨が相当込められている。
聞いている方がドン引きする程に。
場に居合わせた魔術士はおろか、騎士まで顔をしかめて見ている。
あ、ティアとセバスチャンが大股で一歩離れた。
近くにいたくないんだろう。気持ちがよく分かる。
国王たちは、さすがというか、表情が全く分からないので、なにを考えているかは不明。
ただ、この場で今笑っているのは、セレスだけだ。
「可哀想ですわ。ルヴァイド様は、お父様に愛されたくて、その心を付け入られただけなのに」
「くだらない」
「寛大な心で許して差し上げたら? お可哀想なルヴァイド様は、愛に飢えた幼子も同然なのですから。ねぇ?」
さも同情するような口調だが、薄笑いが隠せないセレスは、ルヴァに流し目を送ってくる――が、急に不可解そうな顔をして目を瞬く。
それから、今度は正面切ってこっちを凝視し……それから、ワナワナと震える手で指さしてきた。
「邪霊が生きてる!?」
「なに!?」
驚愕の声を上げたのはセレスと、公爵だけ。
みんな、ふわふわ浮いている半透明生物には気付いていたのに触れないのは、国王の許しがないからで、セレスとか公爵はあえて視界に入れないようにしているだけだと思ったのに……。
「え……本気で気付いてなかったの? わざと無視してるだけだとばかり……」
「ずいぶんと視野が狭いな。眼病を疑うべきか、愚かしさを嘆くべきか」
ルヴァは淡々と呟きつつ、私をふたりから隠すように立ち塞がった。
それから、スィーヤと頷き合うと、壇上の国王を見上げる。
「この度は、第二王子ジルベルトにより迷惑をかけたな、守手ルヴァイド・フォン・ルーカッセン」
王が口を開くと、ついてきていたジルベルトがしゅんと肩を落とす。
慰める気もなければ、義理もない。ルヴァが死ぬ危険だってあったんだから。
「だが……よく無事に守り通してくれたな」
「おそれながら陛下、私ではなく精霊である彼女が機転を利かせてくれたので、難を逃れることができたのです」
褒められて、うんうん言っておけばいいのに、ルヴァは自分が手にしていたガラスの破片を見せる。
血まみれのそれをみて、場が少しざわついた。
「鏡の君は、この破片の中に入り込み、消耗を避け守手と共に在りました」
ルヴァにかわりスィーヤが説明すれば、王は頷いた。
「ルヴァイド・フォン・ルーカッセン、そなたの献身に感謝する。そして次代の希望となる方よ、よくご無事で――」
「陛下! 騙されてはいけません、それは邪霊です!」
高い声が、王の言葉を遮った。
セレスだ。
こういう場での礼儀を知らないはずがない公爵令嬢による、無礼極まりない割り込みに、場のざわめきは一気に静まりかえり――。
「ほう? なにを根拠に?」
王の鋭い視線が、セレスに刺さる。
けれど、王の発言を意図して遮った自称悪役令嬢は、堂々と立ち、微笑んでいた。




