63話 プリズンはブレイクしない
「全て、私が間違っていた」
殊勝な顔をして、間違いを認めるジルベルト。
はっきり言って、態度が急に変わったなんて不気味極まりない。
「……なんのつもりですか」
ルヴァも気持ち悪そうに顔をしかめ、ジルベルトを睨んでいる。
でも、反応があったことに安心したように、ジルベルトは眉尻を下げた。
無視されることが、王子は堪えるらしい。
自分だって、ルヴァやティアの声を全部無視したくせに。
(少しは身にしみればいいんだ)
あと、またルヴァに嫌な事言ったら、今度はむしる。
ルーカッセンのクソオッサンみたいに髭はないから、お前の場合は髪の毛だ、覚悟しておけよな!
私は意気込み、王子が次になにを言うか破片の中で待つ。
「全て、聞いた」
「……全て?」
「ルーカッセン、君の言ったことが、正しかった。……精霊は――邪悪ではない。この地を脅かしたのが精霊ならば、英雄王に力を貸したのもまた、精霊だった」
そうだよ。
王族なら、勉強すれば分かったことなのに。
つまんないって投げ出して、それでも、精霊に違和感を持ったのなら調べたり聞いたり出来たはず。
そういう環境は整っていたのに、ジルベルトはそれを活用しなかった。
(偏った知識で思い込みを加速させた挙げ句の、絶対殺すマンが爆誕だから、笑えないよ)
命を狙われる方の身にもなってほしい。
今だからこうして呑気に野次ったりできるけど、あそこで死んでいたら……ルヴァを止めてくれる人は誰もおらず、ジルベルトが第一発見者になっていた可能性もある。
それこそ、取り返しのつかない不幸だ。
「許してくれルーカッセン、私は王位も継げないこの身が、なにを学ぶのかと、投げやりになっていたのだ。自ら、学ぶべき機会から逃げた」
どうせ、自分は王になれない。
だから、無意味なことはしたくない。
ふて腐れた気持ちで、それでもやらなければいけないことをおざなりにしてきた、その代償だ……とジルベルトは項垂れる。
なんか王さまや兄……この場合、王太子か。
さらにはスィーヤに、散々怒られたらしい。
その上、懇切丁寧に諭され説明され……でも、受け入れられなかったと、ジルベルトは呟く。
だけど――と、自分の頬に触れた。真っ赤な紅葉が咲いている方だ。
「泣き腫らしたティア嬢に、打たれた」
「…………」
「一生恨むと……自分の大事な友人たちを殺し、傷つけた私を、死んでも許さないと言われた」
それでやっと目が覚めたという。
ティアが王子の顔を……。
剛毅な女性は、まさかの可憐なティアだった……。
ああ、多分、きっとあの子は傷ついてもの凄く怒ったんだろう。
私たちのために。
胸が痛むが、それでティアが処罰されたらたまらない。
目が覚めたというのなら、感謝されてこそ罰せられるいわれはないはずだ。
「……ルーカッセン、この一件で、この頬を打った者も、私を攻撃した者も不問だ。そう、父上がお決めになられた。私も異論はない」
いぃよっしゃぁ!
ルヴァもティアも、無罪放免!
これで、大手を振って外に出て、ティアに会いに行ける。
そうと分かれば、王子にはもうご退場願いたいんだけど……。
「…………」
なぜか、まだこの場に留まり、変な事を言いだした。




