61話 居場所
「ダメ!!」
「――っ!?」
「なにやってるの、ルヴァ! そんなもの首に刺したら、死んじゃうでしょ! ダメだよ、絶対ダメ! 破片を離しなさい!!」
あっぶない!
ちょっと目を離したら、大変なことになっていた!
なに、死のうとしてるのこの子は!
投獄自害なんて、ゲームより悪い終わり方だよ!
「……ミラ?」
「そうだよ、ミラだよ。ルヴァ、はやく破片を離して。ああ、もう、ほら、手も切れてる……!」
ルヴァはポカンとしたまま、私の言うとおり手を開く。
破片を握りしめていた手は、血で真っ赤だ。
「だいたい、なんで誰も手当しないの! 囚われの身の上でも、最低限のことはやってほしいよ!」
「……ミラ」
「大丈夫、任せて! 精霊力みたいななにかで、ルヴァの傷も治せるよ!」
そう。やればできる。やらなきゃできない!
だから、こう、集中して、集中して~。
ルヴァの手に触れて、治れと念じる。
すると、ほんのりと温かな光がルヴァの手を包み、傷が癒えていく。
「や、やった……! 治ったよ、ルヴァ! どう? 痛みはある?」
「…………ミラ」
ルヴァは傷が治っても呆けたままで、私の名前を呼んでいる。
「うん。ここに、ちゃんといるよ?」
「……っ」
治ったばかりの手が、私の顔に触れてくる。
「ミラ……!」
確認するように上下していた手が止まり、ルヴァがくしゃりと表情を歪めた。
勢いよく、私に抱きついてくる。
「おっと……! 心配かけてごめんね、ルヴァ。でも、死ぬのはダメだよ」
「君を……失ったかと、思って……!」
「大丈夫。私の守手は誰だと思ってるの? ルヴァだよ。ルヴァが今までずーっと魔力を高めてくれて、鏡に注いでくれていたから、とっさに避難できたんだよ」
そう。
セレスという悪役令嬢ならぬ鬼畜極悪女に鏡をたたき割られた私は、下手をすれば消滅だった。
けれど、全体的にルヴァの魔力が浸透していた手鏡だ。
例え鏡の破片でも一時的揺り籠としての役割は充分だったので、私は適当な破片に「えいや」と飛び込んだ。
それから、すぐに飛び出してこれればよかったんだけど、やっぱり全体的には弱体化してたんで、なんとか存在を安定させようと思って四苦八苦して……こんな時間までかかってしまった。
ようやく外が見えてきて……そしたら、セレスがドヤ顔で色々言ってて、ルヴァの様子は変で……。
その後でいきなり死のうとするんだもん!
いや、本当、間に合ってよかった。
「君を失いたくない」
泣きながらルヴァが言う。
「それなら、私だってそうだよ。二度と死のうとなんて、しないで」
「君がいるなら、二度としない――だから、どこにも行かないでくれ。もっともっと、ちゃんとするから、強くなるから……」
またそうやって、全部背負い込もうとして。
「だーかーらー! ルヴァは、がんばりすぎなんだよ~」
「がんばらないと、君を守れない」
「私が立派な精霊になれば、自由にあちこちいけるから、負担も減るよ」
「……減らなくていい」
ぎゅうっと、一層強く抱きしめられた。
「このままでいいんだ。……僕は、君の守手なのに……君の自由を喜べない。ずっと、一緒にいてほしいなんて、思って……」
「ルヴァ?」
「ミラを、どこにもやりたくない」
なんだそれは。
――そんなの、嬉しいに決まってるじゃないか。
「……うん――私も、ずっとルヴァと一緒がいいよ」
ルヴァに応えるように背中に腕を回すと、驚いたように固まる。
「どこにもいかない。だって、私がいたい場所は、ここだもん」
「――っ」
それから、もう一度確かめるように、しっかりと抱きしめられた。




