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58話 パリーン!

 絶望感漂う声に返ってきたのは、真逆の明るい声。


「ティア嬢……その手鏡……、そうか! 私に助けを求めに来てくれたのだね!」

「違う……違います! 近寄らないで!」


 私が悪態をつく前に、ティアが悲鳴に近い声でジルベルトを拒否した。


「なぜ? 君が自ら来てくれたのに……ああ、そうか、やはりその鏡が君を苦しめているのか。忌々しい邪霊め……!」


 いや、ティアは危険人物から逃げただけ。

 そしてここには、ルヴァイドがいたから安心しただけだ。

 お前の姿なんて視界にすら入ってない。

 帰ろうとしてたのに猛ダッシュで戻ってきたお前のことは、心底嫌がってるから。


 だが、この自己完結王子、人の話を聞かない。

 耳垢が詰まっているのだろうかと思うほどに、聞こえていない。


「おやめ下さい殿下!」


 ルヴァが、ジルベルトを止めようとしている。


「黙れルーカッセン!」

「陛下に王命の真意を問い質すのではなかったのですか!」

「手鏡が手に入れば、話は早い! 全てを救い出せば、それですむだろう!」


 ルヴァに意気揚々と答える王子。

 そこへ――また、気配なく、彼女が現れた。


「あらあら、手こずっているようね。わたくしが、お助けいたしましょう」


 セレスだ。

 彼女がパチンと指を鳴らす――すると。


「きゃあ!」


 ティアの体に、黒い……モヤ?

 影から伸びてきた、黒いモヤが、ティアの動きを阻害するように絡んでくる。


「くっ、これは……」

「正しい行いのためだ。君は頭を冷やせ、ルーカッセン。……助かったメイベルン嬢」

「いいえ。ふたりとも、邪霊に囚われた哀れな奴隷ですから、目を覚まさせねば」

「ああ、その通りだ」


 どうやら、ルヴァも同じ状況らしい。

 ――ダメだ。

 このままだと、ダメだ。


(助けないと)


 そうだ。

 ルヴァもティアも、いつだって私を助けて守ってくれた。


(私が、やらないと……)

 

 こういう時こそ、私がふたりを助けないでどうするのだ。


「ふたりに触らないでよ!」


 ずっと守られていた鏡から飛び出して、私は叫んだ。

 同時に、突風が起こって黒いモヤを吹き飛ばす。


(使えた……)


 気持ちの悪いモヤを消し飛ばしたいと思ったら、本当に飛ばせた。

 だけど、安心はできない。


「ついに姿を現したな、邪霊め! ティア嬢を利用して、なにをするつもりだ!」


 ジルベルトは、義憤に満ちた声で怒鳴ってくるし。


「くふふ、これがラスボス……!」


 セレスは、目をらんらんと輝かせている。

 そして、どちらも戦闘態勢だ。


(ひ、人を傷つけるのは……)


 とにかく突風で目に砂が入ったとかなって、どっかに行ってくれないだろうか?

 そう思ってもう一回突風を起こす。

 すると、ふたりが顔を覆った。


 今だ、逃げよう――。


 だけど、風の中で伸びてきた腕がティアを掴む。


「離して……!」

「目を覚ませ、ティア嬢!」


 力で敵わないのをいいことに、ジルベルトがティアの腕を掴むと強引に引き寄せ、鏡を奪い取った。


(あぁぁぁぁぁぁっ!! 人の揺り籠に!)


 精霊的に無理めなタイプである、ジルベルト。

 奴が触っていると思うと鳥肌モノだ。

 私の感情に合わせて風がより強くなり、ジルベルトがうめき声を上げて鏡を落とした。


(割れ――いや、割れてない! セーフ!)


 二度と触るなよ!

 と、威嚇しようとしたけれど、別の細い手が伸びてきて「あ」と思った。


「くふふふふふ」


 特徴的な笑い声。

 そして、にぃっとつり上がった唇とらんらんと輝く目。


「本体は向こうだとしても、これで弱体化フラグ達成よね!」


 セレス・フォン・メイベルンは、手に取った手鏡をためらうことなく、地面にたたきつけた。

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