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55話 もはや通じる言葉もなく【ルヴァ】

「なにがだ? なにがおかしい、ルーカッセン」


 気色ばむ殿下に、僕は首を横に振る。


「己の力不足に呆れ、乾いた笑いしか出てきません――そこまで殿下に誤解されていたとは、このルヴァイド・フォン・ルーカッセン、不徳の極み」


 ミラがここにいなくて、よかった。

 彼女に託してきて、正解だった。


「精霊は悪しき存在ではない……まずは、これを殿下にきちんとお伝えするべきでしたね」

「馬鹿なことを……。邪霊は悪だ。わかりきったことだろう」


 この男の声なんて、ミラに聞かせたくもない。

――人の話に、耳を傾けるということを絶対にしない、こんな男の声なんて。


「邪霊ではありません、精霊です。我々人間にだって、様々な性格の持ち主がいるように、精霊とて個があります」

「君は魔術士だろう? 文献に目を通していないのか? 邪霊がどれほど被害をもたらしたか、事細かに記されているだろうに!」


 目を通しているに決まっている。

 守手として、公開されている以上の情報を目にしてきた。

 それは、王族とて同じこと。

 国のために存在してきた精霊を知り、学んでおかなければいけないはずだが……。


「英雄王と国守の女神の加護がなければ、どうなっていたか」


 国守の女神――ああ、市井に暮らす者ならば、そんなおとぎ話のような伝承を信じていてもかまわない。


 だが、ジルベルト殿下は王族だ。

 正しく伝え、受け継がなければならない知識がある。

 今、自分が口にした、神と言い伝えられる存在こそ、お前が忌み嫌う精霊なのだと、本当は分かっていなければならないのに。


 肌に合わないからと、それだけで学ぶのを止めてしまった愚かな王子。

 その後、何度も、学ぶ機会はあったのに。


「遙か昔、この地を混乱に陥れたのも精霊の仕業だったのだぞ。貴族に籍を置き、魔術士でありながら、なにを学んできたルーカッセン! 公爵は、あれほどまでにしっかりと役目を自覚し、精霊に対しても知見も深いというのに……嘆かわしいな」


 ――いつも、思う。

 そんな目で見られるいわれはないと。

 お前に嘆かれるようなことなど、ひとつもない。

 そして、父に学ぶべきことも、ない。


「ここまで歪んでいたとは……。君は可哀想な男だな、ルーカッセン。それに、心優しいティア嬢を巻き込んだか……。やはり、このままにはしておけない。鏡を渡せ。手荒なまねはしたくない」


 本当に、本当に……。


「私の手元にはございません」

「なに? 一体どこへ……」

「王命により、秘する権利がございます。故に、殿下といえど、私に答える義務はございません」


 ――なにも見ないし、聞かない人なのだな、この方は。

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