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53話 少しの我慢だ!

「離れる……とは?」

「ルヴァ? なんか、声震えてるけど……大丈夫?」

「問題ない」

「いや、でも、足もガクガクしてるけど!?」

「問題ない……!」


 ルヴァはそう言うけど、どうみても問題ありだよ。


(一体どうし……あ、私の言い方?)


 離れた方がいいと思う。


 うん。

 私はいま確かにそう言った。


 だって、私の揺り籠である手鏡を持ち歩いてるから、あの面倒くさい人たちに目を付けられたのなら、持ってませんよ~ってアピールするのが、手っ取り早いと思うから。


「あのね、ルヴァ……離れた方がいいと思うとは言ったけど」

「君の意見を聞く前に、僕の考えを言わせてくれ」


 みなまで言うなと、手を突き出され制止された。

 大人しく口を閉じると、ルヴァはノンブレスで話し始める。


「君は僕と距離を置きたいと言ったがそれは現実的に考えてどうかと思うだって君への魔力供給はどうするんだ守手である僕の仕事だろうにそれを放棄してまで君と離れるなんてどう考えてもおかしい僕たちは共にいるべきだ君が嫌だとしても僕は――」


 うおぉ……全く息継ぎを挟まない早口。

 もうなに言ってるか分からなくなってきてるよ。

 でも、つまりはこういうことだよね?


「ルヴァは、私と離れたくないってこと?」

「そうだ!」


 くい気味で来た。

 ああ、でも、そっか。


「私も、ルヴァと一緒がいいよ」


 笑いかけると、ルヴァの肩から力が抜ける。

 ポカンとした後、それならどうして……と責めるような視線を向けられた。


「ずっと離れてるわけじゃないよ。あくまで、あのふたりの頭が冷えるまでの間。ルヴァに注目している間は、あの手この手で鏡を取ろうとしてくる可能性があるでしょ。……そうしたら、私はまた無意識に弾いちゃうかもしれない」


 王子にそれをやったら、また面倒事を引き起こしそうだし。


「……それにさ、ルヴァに必要以上に近づかれるのも、嫌だし」

「――ミラ、それは……どういう意味だ?」

「どう? どうって……」


 再度、ルヴァの声が震えた。

 また悪い方に勘違いさせたかと思ったけど、足は震えていない。

 でも、顔は怖いくらい真剣だった。

 ウソも誤魔化しも通じない……そんな雰囲気が漂う。


「君は、今、どういうつもりでそんなことを言ったんだ?」

「なんか嫌って? ……嫌は、嫌なんだよ。ティアとスィーヤには全然そんな気持ち抱いたことないし、セバスチャンさんたちお屋敷の人たちにだって思ったことない。今だって、ルヴァに新しい友達が出来れば嬉しいって喜べる。でもさ……なんか、嫌なの。ルヴァのことちゃんと見ないのに、ルヴァに近づいて来られるのが、……すごく――腹が立つ。そういう人には、ルヴァに近寄ってほしくない」


 言ってて気付いた。

 これって、ただの我が儘だ。

 この人はいい、この人はダメなんて、あまりに勝手な言い草。

 青くなって、私は弁解染みた言葉を並べる。


「……ぁ、いや、えっと……別に、ルヴァの行動を制限したいとかそういうつもりはなくて……」

「…………」

「ルヴァ? お、怒った?」


 自分の口元を片手で覆いそっぽを向いているルヴァ。

 その顔が、じわじわ赤くなるのを怖々見上げると、チラリと視線がこっちを見た。


「……怒ってない」

「そう? 本当に?」

「……僕も」

「うん?」

「……僕も、君と似たような事を思う――誰も、君に近づいてほしくないなんて、乱暴なことを」


 そうか。私たち、まだまだお互い離れが出来ないんだねとか、なんとか言って笑うはずだった。

 けれど、私の口は中途半端に開いて固まる。


(あ、あれ? なんか、変だ)


 嬉しいような、恥ずかしいような……。


「ミラ? ……顔が赤い」

「これは精霊仕様なの! ル、ルヴァだって赤いよ!」

「そうか? 嬉しかったからだろうな」

「~~っ」

「君が、嫌になって僕から離れたいと思っているわけでは無くて、よかった。君が、僕に独占欲を感じてくれて、嬉しい。ただ、それだけで、僕の心は喜びに震えるんだ」


 微笑むルヴァは、まるで乙女ゲームのごとき甘くてこっぱずかしい言葉を吐いた。

 それがあまりにも自然で絵になるので、私は色々な感情が限界を迎える。


「そ、それで、どうだろう? ちょっとの間なら、手鏡の中で大人しくしてればいいから、大丈夫だと思うんだ!」


 話を無理矢理元に戻した私に、ルヴァは思案するように黙った。

 

「…………」

「この部屋において行ってくれれば」

「ダメだ。下手をすれば、殿下の権力で押し入られる。……僕は、よほどのことが無い限り、君から離れないと決めていた」


 ああ、ルヴァ、責任感強いから。

 じゃあ、この案はダメか。

 私が肩を落とすと、ルヴァが「仕方がない」とため息を吐いた。


「君が嫌悪感を覚える相手が、再度接触してくる可能性が高いのなら……君に無理を強いるという意味ではよほどのことだ。……わかった、ミラ」

「え……?

「短い間でも、君と離れるのは辛いが……君を守るためだならば――僕は守手として、君の提案を受け入れる。ほんの、短い間だからな」


 念押しされて、うんと頷くとルヴァも頷き返す。

 それから、すっと目を細めて呟いた。


「君に、有象無象を近づかせないためだ。……手早く片付ける」


 ――こういう悪い顔も似合うルヴァだけど、やっぱり笑顔が一番だから……本当に、あの迷惑コンビにはさっさと諦めてもらいたいよ!

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