表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/73

52話 鏡の精の思い切った決断

 寮にあるルヴァの部屋。

 そこで、ようやく私はルヴァに話しかける事が出来た。


「ルヴァ、あの……」

「…………」


 飛び出してきた私を、ルヴァは驚いたような目で見てくる。


「さっきは、ごめんなさい! 私、人に怪我をさせるつもりはなくて……!」

「落ち着け。急に飛び出してきて、どうしたんだ?」


 声は、怒っていなかった。怖いのを誤魔化す感じでもない。

 いつも通り、目が合うと笑ってくれる。

 嫌悪感は感じない。

 でも……それでも、だ。


「人に、怪我をさせて……本当に、ごめんなさい」

「手が少し赤くなっただけだ。それも、不躾に手を伸ばしてきて、触ってこようとする慎みと礼儀に欠けた相手。いい薬だ」


 セレスは、ルヴァに近づいてきて無遠慮に体に触ろうとしたらしい。

 おそらく、手鏡を探そうとしたんだろうけど、まぁ、事情を知らない人が見ればセレスの行動は完全にアウト。

 止めなきゃいけないジルベルトも制止しなかったってことは、目先の利益に惑わされたのだろうとルヴァは淡々としている。


「それより、君には嫌な話を聞かせたな。……それでなのか? 結界を張ってまで相手を拒否したのは。……人が、嫌になったか?」


 少し不安そうなルヴァの声に、私は慌てて首を横に振る。


「ううん! そうじゃない! ……なんか、近づかれたらすごく嫌な気分になって、これ以上近づかないでーって思ったら……ばちんって音がしたから……ごめん、結界とか訳分からないうちに張っちゃったんだと思う」


 成長だと喜べることのはずなのに、一番面倒な状況でさらに悪化を招いた要因となると……全然、嬉しくない。


「メイベルン嬢か?」

「うん……」

「……僕も、なんだか妙な気配を感じた。……言い表すなら……寒気のような、気持ち悪いような」

「そう! 私も……!」

「君にまで……。悪かった、そんな思いをさせて」


 ルヴァが謝ることではない。

 だって、突然だったのだ。

 なぜか、突然、嫌な感じになった。


 自分が、これほどの忌避感を彼女に覚えるとも思っていなかった。


「だが、おそらく殿下もメイベルン嬢も、懲りないだろうな」

「……変な疑いをもたれちゃったのは、私のせいだね」

「いや、なにをしても殿下は僕を疑っただろう。そして、セレス・フォン・メイベルンもだ。……彼女は、なにかを知った気になっているようだからな」


 ああ、たしかに。

 訳知り顔で、かすりもしないことを語っていたセレスを思い出す。


 でも、冷静に考えれば腑に落ちる。

 セレスがドヤ顔披露してたのは、ゲーム知識だ。

 ゲームのルヴァイド・フォン・ルーカッセンならば、こうなっているはずだという情報を語っているのだ。


 ――今のルヴァを、見ていない証拠だ。


(そんなに、ルヴァを悪者にしたいの?)


 自分で悪役令嬢を名乗る彼女と違い、ルヴァは悪役令息なんて自称していない。

 変な道に、ルヴァを巻き込んで欲しくない。

 でも……私がそばにいると、ルヴァは痛くもない腹を探られる。

 だったら……。


「ねえ、ルヴァ」

「ん? どうした?」

「私たち、離れた方がいいと思うんだ」


 そう言った次の瞬間、ルヴァは笑顔のまま固まってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ