48話 アイツが殺しにやってくる!?
殿下が、私を殺しに来る?
殿下って、ジルベルトのことだよね?
(なんで?)
彼と私に接点はない。
私は、ゲームの攻略キャラということを除いても、ルヴァに絡みティアを困らせる迷惑王子として一方的に知っているけど。
そんな、認識していない相手を、どうやって殺しに来るというのだろう。
「ミラは、殿下と面識はない」
同じ事を、ルヴァも考えていたようだ。
すると、ティアは涙を拭って、首を横に振った。
「知っていたんです」
「……?」
「いいえ、知っていたというか、気付いたというか……以前から、手鏡のことを気にしていましたが……手鏡に、精霊であるミラ様が宿っていると、気付いていました」
なんだかんだ言って脳筋枠だと思って、侮っていた。
奴は、頭に《なんだかんだ》と付くように、生粋の脳筋ではない。
首席の挨拶をするだけの、知識がある、いわば不純なる脳筋枠。
あとはきっと、勘が鋭いとか、そんなんだろう。
「で、でも、だからって、なんで殺すとか……」
はい、気付きました殺しますとか、乱暴すぎやしないだろうか?
(王子の恨みをかった覚えはないんだけど!)
私が慌てれば、ティアは辛そうに「実は」と呟いた。
「……邪霊、だと」
「は?」
「ミラ様が、邪霊で……ルヴァイド様は、邪霊を呼び出し使役する悪人で……わ、私は邪霊の力で魅了の術をかけられた……気の毒な人間だと……!」
ティアの声が、震える。
「私の事を、哀れんで――精霊様は善い存在だと伝えても、村の信仰を訴えても、あの方は、私を……ただ、無知で哀れな小娘だと、だから救ってやると……」
はー……なんてことだろう。
ティアは自分の村の信仰のことまで話して、誤解を解こうとした。
それなのに、ジルベルトは聞く耳持たなかった。
無力で無知な被害者だからと、話を聞かなかったんだ。
そして、ルヴァのことを……それこそ、悪い魔術士と疑っている。
国に災いをもたらすために、邪霊を呼び出したとか思ってるんだろうか。
――そうか。だから……。
「だから、元凶だろう精霊……ルヴァの手鏡を壊すってことね」
常に手鏡を持つルヴァに絡んできたのは、当初から手鏡になにかを感じていたってことか。
でも、王さまに報告することもなければ、素直にルヴァに聞くこともなく、遠回しにネチネチしてきたんだから、アイツは初めから色眼鏡でルヴァを見ていたんだろう。
そして、その色眼鏡でティアのこともガン見して、追いかけ回して……。
「殿下が言ったんだな? ミラを殺すと」
「はい。邪霊は、自分が殺すから、私も解放されると――恐ろしいことを」
お気楽な鏡の精を知っているティアにしてみたら、邪霊とか意味不明だし、知り合いを殺すとか言われて怖かっただろう。
でも……。
「逃げるって?」
「学園を出るんです! だって、ここにいたらミラ様はあの方に害されます! ルヴァイド様だってそう思うでしょう!?」
「ティア、逃げることは解決にならない。殿下が、精霊を害すると発言したのなら、なおのことだ――師匠に連絡を取れ」
ルヴァの冷静な態度に、ティアもだんだんと落ち着きを取り戻す。
「あ、スィーヤ様……」
「そうだ。僕たちの師匠であり、お前の庇護者だ。こういう時こそ、頼るべきだ」
「……っ」
ティアが、ハッとする。
不安そうに私を見る彼女に、頷いた。
「スィーヤを頼ろう。事情を知ってる人だから、王さまに伝えてもらおう。そしたら、王子を抑えられるかもしれない。……なにより、ティアがこんなに不安がっているんだから、家族を頼ろうよ!」
「……スィーヤ様、私に失望しないでしょうか」
「どうして?」
「殿下の気をそらすこともできず、ミラ様への危険を招き寄せておきながら、その対処も出来ないなんて……と」
「もう、馬鹿だな、ティア。これは、ティアのせいじゃないでしょ。スィーヤが失望なんてあり得ない。むしろ、困ったことになったらすぐ頼って! って拗ねちゃうよ。だって、スィーヤはティアのことを、大事に思ってるんだから」
ごめんなさいと、ティアが謝る。
いや、本当に謝ることなんて、なにもない。
ティアが謝るんなら、私は土下座しても許されなくなる。そもそも私がくっ付いてこなかったら、もっと楽しい学生生活がおくれたはずだから。
「誰のせいでもない」
そんな時に発された、ルヴァの言葉。
私が頷くと、ティアもやっと頷いた。
それから、意志のこもった眼差しで私たちを見る。
「……これから、スィーヤ様に、包み隠さずお伝えします」
「うん」
「ですが……どうかジルベルト殿下にお気を付け下さい。身の危険を感じたら、お二人だけでもお逃げ下さいね」
「ティア! またそんなこと言って!」
「――ミラ様。私は、最悪でも命までは取られません。ですが……殿下の口ぶりだと……ミラ様は……」
ティアの表情は真剣だった。
真剣に私の身を案じている。
「そんなことにならないために、はやく行けティア」
「――はい!」
ルヴァの言葉に、弾かれたようにティアが駆け出す。
多分、寮に置いてあるペンダント型通信機で連絡を取るんだろう。
「……大丈夫だ。君は、誰にも害させない」
「うん。ありがとう、ルヴァ。私もできる限り表に出ないようにするから――ティアの心配するようなことは、起こらないよ。絶対」
私たちは、頷きあう。
だけど、相手はそんな平和的思考回路を持っていなかった。
ティアに逃げられたと察したなんだかんだ脳筋王子は、午後になり、ルヴァに声をかけてきたのだ。




