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4話 鏡の精、保護者枠に立候補します!

『僕は、ルヴァイド・フォン・ルーカッセン! ここイデル王国の建国の祖、英雄王の盟友がひとり《青の友》に連なる、由緒正しき一族、ルーカッセン公爵家の嫡子だ。お前のようなどこの馬の骨とも知れぬ輩が気安く声をかけるんじゃない。汚らわしい』


 出てくる度に毎度同じ口上をツラツラ並べる噛ませ犬、ルヴァイド。

 相変わらずムカつく小悪党だと、画面を見つめて私は鼻で笑う。


 ここは、そんなルヴァイドとヒロインの出会い、因縁の始まりのシーンだ。


 ヒロインはここで、この嫌味な男の子が自分を気にかけてくれるおじさまの血縁者だと気付き、笑顔になる。

 反対に、ルヴァイドは怒りだしてヒロインを突き飛ばし、さらに罵倒する。

 ヒロインが泣き出して、おじさまが助けに入って、ルヴァイドを怒るのだ。

 ヒロインは抱き上げられ、ルヴァイドと引き離される。その時、すごい顔でにらまれたというヒロインのモノローグで終わるのだが――。


(はい! 親父アウトー!! たしかに、ルヴァイドが悪い。悪いよ? けど、そもそもの原因は息子放り出してよその家の子を猫かわいがりしている、あんただから! アウト、アウト、アウト! スリーアウトでルヴァイドの保護者チェーンジ!!)


 そして、私参戦!!!!


 力の限り叫んで――目が覚めた。

 

(お、おぉ、夢か……)


 今の夢……あれは、あくまでゲームだ。ゲーム上での出来事にすぎない。


 ここにいるルヴァは、ああはならない。

 私が、絶対にさせない。


 そう思いつつ、寝台に視線を向けた。

 そこには、すやすやと眠るルヴァがいるはずだったのだが――。


(え、いない!? ど、どこ? どこ行った!?)


 よく部屋を見れば、カーテンは開けられているし、窓から入ってくる太陽の光の多さよ。

 これは、すでに朝どころか、お昼を迎えているパターンでは?


 つまり、私は――。


(寝過ごした……!)


 なんてことだ。

 ルヴァ健やか育成計画の初日から、初歩的なミスをしてしまった。


 朝に「おはよう」の挨拶からコミュニケーションを取り、さりげなく本日の予定を聞き出し、ついでに部屋にも顔を出してねーとアピールするつもりが……これでは、ルヴァの所在が掴めないうえに、下手したら夜まで会えない。私は鏡から離れられない身の上だから、最初の一手が大事だったのに……。


(……試してみようか?)


 試しに外に出てみようかと、私は鏡から抜け出した。そのまま一歩、二歩と少しずつ鏡から離れる。その時、部屋の扉が開いた。


「――なにをしている!」


 やって来たのはルヴァだった。ここは彼の部屋なのだから、ルヴァが顔を出してもなんらおかしくない。

 けれど、目が合うなり怒鳴られるのはなぜなのか。


 私が混乱している間に、ルヴァはツカツカと室内に入り――そのまま私の体を鏡の中に押し込めた。


「あ~……」


 思わず不満げな声をあげると、ルヴァの目尻がつり上がった。


「なにを考えている! また苦しい思いをしたいのか!」

「それは嫌だけど……ルヴァにおはようも言えなかったから、どうしてるか気になって……」

「嫌だというなら、もっと自分を大事に……――なに……? 今なんて?」


 怒り指数がみるみる上がり、あっという間に沸点に到達しそうに思えたルヴァだったけど、不意にトーンダウンした。


「……僕が、気になると言ったのか?」

「うん」


 確認するように問われて、私が素直に頷けば、ルヴァの怒りは完全に消えた。


「……なぜ、僕が気になる」

「なんでって……心配だから。ルヴァは誰かが見ていないと、無理しちゃうみたいだから」


 正確には、誰かがそばで見守ってないと、色々拗らせねじ曲がり大変なことになっちゃうから、心配なんだけど。


「……心配? ……心配……そうか、心配、か……」


 私の言葉を受けたルヴァは、あっけにとられた表情を浮かべると同じ言葉を繰り返した。


「ルヴァ? あの、大丈夫?」

「……初めてだ」

「え?」

「そんな風に気にかけてくれたのは、お前が初めてだ」


 少しだけ頬を赤くして呟くルヴァに、私は目を瞬く。

 初めてって……え、お母さんは? と思ったけれど、すぐにある事に気付く。


 ――ルヴァイドは、よく出来た子だ。出来すぎているといってもいい。

 そういう風に、振る舞うことができてしまう。


 だから彼は、お母さんを前にしても……お母さんの前だからこそ「手のかからない良く出来た息子」として振る舞ってきたのでは?


 無関心な親父に代わり、自分や家を守ろうとしているお母さんを、安心させるために。


(……ある。普通にありえる)


 だってルヴァイドは、ゲームでの敵対シーンでこう言っている。


『努力したさ! お前なんぞに言われるまでもなく、ルーカッセン家の嫡男に相応しくあるために子どもの頃から努力してきた!』


 正直、ヒロインに負けて逆ギレしてきたから、プレイ中は「ウザい」くらいにしか思わなかったんだけど……。


(こういうことだったとしたら……!)


 そりゃ、キレるわ。

 目の敵にしている相手と大して親しくもない奴から訳知り顔の上から目線説教くらえば、蓄積された鬱憤がパーンッ! となるわ。


 目頭が熱くなってきて、私はたまらず目の前で照れているルヴァを抱きしめた。


「気にかけるよぉぉっ! かけるに決まってるじゃん! うっとうしいっていわれても、君のことずっとみてるよぉ~!」

「へ? は? え、ちょっと、落ち着け……というか、泣いているのか? どうして?」


 不思議そうな顔をするルヴァがまた不憫で、私は彼を抱きしめたまましばらく泣き続けた。

 端から見れば情緒不安定でしかない醜態だったけど、ルヴァはドン引きしなかった。

 むしろ、私が泣き止むまで付き合ってくれた。


 優しい。

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