47話 彼女が泣いている理由
「ティア、なにがあったの……!?」
涙が止まらないティアは、唇をかんでいる。
もしかして、誰かになにかされたんだろうか。
ジルベルトに付きまとわれていることに、嫉妬した誰かが……。
「誰かに、なにか言われた?」
ティアは答えない、その間にも涙がポタポタと地面をぬらしていく。
体が、震えてる。
(ティア、なにも言わないけど、やっぱり誰かに嫌がらせされたんじゃ……?)
心配になって手を伸ばす。
少しだけ、震えがおさまった。
でも、私を見たティアの顔が、ますます泣きそうに歪む。
「ティア……」
「ご……ん……――い」
それは、必死に絞り出すような声だった。
「え?」
「ごめんなっ、さっ……私……」
泣いているせいでつっかえながらも、ティアは私たちに謝り、頭まで下げた。
「どうして謝るの? ティアが謝ることなんて、なにもないよ! そうでしょ?」
こう言っても、ティアは頭を上げない。
本当になにがあったんだろう。
(周りがなにかしたのかな? それとも……王子のせい?)
ティアの背中を撫でて落ち着かせようとするけれど、ティアの涙は止まらない。
それどころか、また体が震えている。
「ルヴァ、ティアを医務室に……」
「ダメ! そんな暇ない!」
私の声を遮るティア。
こんな風に、彼女が大きな声を出すのは、本当に珍しいことだ。
驚く私とルヴァだけど、それにも気付かない様子で、ティアは首を横に振る。
「逃げないと……はやく、逃げないと」
「落ち着け、ティア。お前、顔色が悪いぞ」
「そうだよ、震えてるし……!」
青ざめた顔で泣きながら、体を震わせている少女。
どう考えても、休んだ方がいい。
ルヴァも同じ考えのようで、私にひとつ頷くと「落ち着け」ともう一度繰り返す。
「話なら、医務室で聞く。だから」
「それじゃあ、遅いんですルヴァイド様! ミラ様が殺されます!」
「――は?」
ルヴァイドが驚いたように目を見張る。私はぽかんと口を開けた。
だって、あまりにも予想外の言葉だった。
叫んだティアは、自分の言葉でダメージを負ったように頭を抱えている。
これは、冗談ではない。
いや、ティアはもともと悪質な冗談を言うような子ではないから当然だけど、根拠のないことを口にする子でもないのだ。
つまり、ティア自身がそう判断してしまうだけの、なにかがあったということになる。
ティアの性格を知っているルヴァは、物騒な言葉を聞き眉間にしわを寄せる。
私は、知らされた命の危機に、もしかして蠱毒デスマッチの刺客かと身を固くした。
ティアは、自分の話を私たちが信じたと分かったのだろう。
少し落ち着きを取り戻し、安心したように息を吐く。
それから、意を決したように私の手を握ると、まだまだ恐怖一杯の表情で言った。
「みんなでここから逃げましょう? だって、そうじゃないと――」
私の命を狙ってるのは、おそらく私に代わってラスボス蠱毒を制した邪霊……そいつが生み出した瘴魔だろう。
けれど、ティアの口から出た名前は、意外な人物だった。
「殿下が、ミラ様を殺しに来ます」




