45話 口げんか上等!(物陰に潜むなにか)
自室待機を終え、やっと普通に通えるようになったルヴァとティア。
試験結果の発表には間に合った。
結果はもちろん、ふたりとも上位だった!
なんと、ルヴァが一位でティアが二位!
ふたりは、爽やかなライバルのごとく「次は負けません」「返り討ちだ」と笑顔で言葉を交わしていた。
そこへ……。
「やあ。またこうして学園で顔を合わせることが出来て、嬉しいよ」
いけしゃあしゃあとのたまう奴がひとり……。
(この呼ばれてもいないのに主役感出して割って入ってくる、空気読まない感じの声……絶対にジルベルトだ!)
詫びるつもりかとおもったけど、ちょっと刺々しい声の感じからして、自分が間違っているとは思っていない様子。むしろ、学園側がルヴァを拘束しないことを不満に思ってそうな態度だ。
「しかし、今日も一緒か。……君たちは、本当に仲がいいんだね」
それは、ルヴァとティアの仲を揶揄うというより、探るようなニュアンスを含んでいた。
「同門故に、話しやすい相手なので。それが、なにか?」
「同門? それよりも、もっと別の繋がりがあるのではないかと思ったんだが。親密な、ね」
ざわりと周囲が色めき立つ気配。
あ、この王子。わざとだ。
わざと周りが誤解するような言い方をした。
「くだらない」
広がりかけたざわめきが、その刺すように冷たい一言で凍り付いたように静まりかえった。
「邪推はやめていただきたい。我々は、師を同じくし切磋琢磨してきた友です」
空気がピリついてきた。
痛いくらいの静けさの中、ルヴァの声だけが怒鳴ったわけでもないのに響く。
これで引かないのが、王子なのだろう。
ジルベルトは今度はティアに矛先を向けた。
「友? 利用しているの間違いでは? ――君はどうだい、ティア嬢」
「恐れながら申し上げます。殿下がなにを思ってそのような事をお尋ねになるのか、浅学な私には皆目見当がつきません。ですが、これだけはハッキリと答えられます。私にとってルヴァイド様はかけがえのない友人です」
かっ……カッコイイ!
凍っていた空気が、再び動く。
多分、ティアの男前な言動に衝撃を受けたせいだろう。
儚げな外見に反して、王子相手に一歩も引くことなく自分の意見を……それも、王子が望んでいないだろう意見を、堂々と口にするその姿は、この場にいた生徒たちを驚かせたに違いない。
ギャップ萌えというやつだ。
「……なるほど、どうやら君たちには、特別な絆があるようだな」
「――」
「……っ……失礼、侮辱するつもりはなかったんだ」
あれ、最後……王子が一瞬言葉に詰まった?
なんだろう。それに、一応だけど謝ってるし……何かあったのかな?
靴音が離れて行くから、王子はいなくなったんだろうから、いいけど……。
「くだらない」
「それは、私も同感です。だけど、学業は学生の本分だとスィーヤ様も言っておりましたから、今日も真面目にがんばりましょう。では、ごきげんよう」
「ああ、では」
他人の目がある場所ではおいそれと出て行って話を聞けないので、私は鏡の中でふたりの会話を聞いているだけだった。
+++ +++ +++
ルヴァイドたち三人が立ち去った廊下。
生徒たちのざわめきから身を隠すように柱の影にいた女子生徒は、一部始終を見終えると含み笑いを上げた。
そして、ある男子生徒の背中をじっと見つめる。
「くふふふふ、やっぱり、私が悪役令嬢なのよね。でも、ヒロインが仕事しないのなら……攻略対象の目を覚まさせるのは、悪役令嬢の役目よねぇ? ――待っててね、可哀想な貴方」
ピンと伸びた背中、無駄のない動作。
長い手足に、青みがかった髪色。
きっと、正面から見た顔は、いつも通り不機嫌そうに歪んでいるんだろう。
想像して、女子生徒はうっとりと目を細めた。
「ちゃんと愛してあげるからね、私の悪役令息……」




