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37話 悪者にはなりたくない!

「あらら、寝ちゃいましたか。ウチのティアまで、面倒かけて申し訳ありません鏡の君」

「あれ、いつ来たの?」

「つい先ほどです。面倒そうな方がいたので、出るに出られず……」


 温室の奥、扉を開く音すら立てず姿を見せたのはスィーヤだった。

 口調は軽いけど、どことなく申し訳なさそうなのはさっきのやり取りを聞いていたからかもしれない。

 でも、出てこれなかった。スィーヤは宮仕えってやつだから、王子なんかとは準備も無しに正面切って争えないよね。

 気持ちは分かる。歯がゆいんだろう。


「ああ、よく寝ていますね」

「うん。寝る子は育つし、いいことだよね」


 だから、私はそれに触れないよう、愛弟子たちの寝顔をのぞき込んだスィーヤに冗談めかす。

 すると「ありがとうございます」と小さく呟いて、私が聞こえないふりをするとようやく、笑顔を浮かべた。


 (……それはそうと、この子たち、どうしたらいいんだろう?)


 私が慰めていたら、ルヴァもティアも急に静かになって、心配して声をかけたら眠っていたのだ。


「さすが鏡の君、見事なあやしっぷり」


 調子を取り戻したスィーヤが、どこかズレた感のある褒め言葉でおだててくる。


「えー、なに、精霊って鎮静効果でもあるの? やだ、自分が怖い」

「ははは。いやいや、これは真面目な話です。鏡の君の声には精神に作用する力がこもっていました」


 茶化されてるんだと思って軽口で返したのに、真面目に怖いことを言われて、私は焦った。


「は? それって……ダメなヤツじゃない? 人を操ったりとか……!」


 ゲームで黒幕である「悪い鏡の精」が、ルヴァイドを意のままに操っていたのと全く同じ能力では?

 

「不安定だった二人の心に働きかけ、リラックスさせただけですよ。操ったとか、そんな類のものじゃありませんって。……あるいは、鏡の君は、そういう力の使い方がお好みで?」

「まさか! そんなの、怖いじゃん!」

「はぁ、怖い……ですか?」

 

 意味深な笑みを浮かべたスィーヤだったけど私の即答をきくと、キョトンと目を瞬く。 


「そうだよ! 下手したら人の人生破滅させることが出来るんだよ! 凶悪すぎて怖い! ……たしかに、私は早く一人前の精霊になりたいけど……将来の理想像は、平和的精霊だから!」


 臆病かもしれないけれど、大きすぎる力は使い方を間違ったら大変なことになるから、怖い。

 そう言ったら、スィーヤは情けないとあきれ顔をすると思った。

けれど、彼はそれこそルヴァやティアに教えている時みたいな穏やかな笑顔を浮かべ、大きく頷いてくれた。


「そうですか。……それを心で理解しているならば、鏡の君、貴方は大丈夫ですよ」

「……え?」

「きっと、貴方は自分自身が恐れているような、悪い精霊にはなりません」

「――なん、で……」

「ルヴァイドには劣りますが、私だって、そこそこのお付き合いですよ。鏡の君、貴方がなにかを恐れていることには気付いていました」


 そうだよね!

 特殊能力持ちだもんね!

 そのうえ、ふたりのお師匠様だもんね!

 もうひとつオマケに、私の状態観察って言って、頻繁にルーカッセンのお屋敷に来たもんね!


 ――さすが、よく見ていらっしゃる。


「情けないとか、言わないの?」

「なぜです? 力の使い方を恐れるということは、貴方が自分以外の存在を気にかけている、優しさの証でしょう?」

「……未熟なくせに、偉そうなこと言うなとか、思わない?」

「はははは、貴方が我々のような他の存在を思って憂いて下さったのに? そんな愚かしいことを言う輩がいたら、私がきっちりお仕置きしてやります」


 冗談めかして笑うと、スィーヤは私の前にしゃがむ。


「鏡の君。私の絶望と諦観を乗り越え、この世に生まれて来てくれた奇跡。……ご安心下さい。この先なにがあろうと、このスィーヤイェン・フォン・ヴォーテは、貴方の守手の味方でございます」


 そして、真剣な顔でこう言った。

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