31話 なんか来た!
――その後。私のやらかし以降、ルヴァの学園生活は、ジルベルトがちょいちょいウザいことを抜かせば順調だった。
(なんでアイツあんなに絡んでくるんだろう)
ティアに一目惚れしたから、彼女と仲がいいルヴァに絡んでくるのかと思ったけど……奴の話の焦点は、いつだって手鏡に絞られている。
昼休み、またも人気の無い裏庭に集まる私たち。
ルヴァとティアは、情報交換に勤しんでいた。
「……やはり、殿下はルヴァイド様がお持ちの手鏡について、探りを入れているようです。私は、形見であることしか知らないで通しておりますが……」
「すまない。面倒かけるな、ティア」
「……ごめんね」
精霊なんて、多くの人はもう信じていない。
せいぜい、大きな力を持っていて、気まぐれで人に幸福か災いかをもたらす、おとぎ話の悪い存在程度の認識だ。
だけど、もしもその認識が訂正されたら――今まで空想にしかいないはずの存在が、近くにいると分かったら……奪い合いが発生するかもしれない。
それを避けるため、つまり防犯上の理由で、精霊の話は限られた一部の者しか知らないことになっている。
ティアはたまたまルヴァの魔力暴走で居合わせたせいで私と知り合いになっちゃったから、守秘義務を強制されたクチだ。
正直者の彼女がウソをつかなければいけない状況、それも王族に……なんて、精神的にもキツいだろう。
申し訳なくて頭を下げれば、ティアはぶんぶんと両手を振る。
「おふたりとも、おやめください! 私は、面倒などと思いません! ……お友達の助けになれるのなら嬉しいですし、どんな形でもミラ様の健やかな生活をお守りできるのなら、幸せです」
「ティア~!」
「ミラ様!」
ひしっと抱き合う私たちを、ルヴァがしらけた目で見ている。
「……仲間に入る?」
「入らない」
一応、片腕をあげてみたけど、ルヴァからはピシャリと拒否され、ティアから引き離される。
「ふふ、ルヴァイド様は自分お一人がいいんですものね」
「ティア、うるさい」
「え、ルヴァ、ひとりが好きなの? 私、いつも一緒じゃん。うっとうしかった?」
「違う、そういうんじゃない。……ティア、ミラが混乱するから変なことをいうのはやめろ」
渋い顔で言ったルヴァに、ティアは悪戯子猫みたいな笑顔で「ごめんなさい」と謝った。
(うん。これでいいんだ)
私が無理矢理お膳立てするより、自然に自分たちの意志で近づいていくことが一番いい。
目の前で繰り広げられる仲良しなやり取りをみて、ほのぼのしていた私だったが、ふと気配を感じた。
「ルヴァ、誰か来る」
そう告げて、私は鏡の中に姿を消す。
ティアとルヴァは、話題を授業の進み具合に転換し、素知らぬふりで会話を続ける。
――カツン。
靴の音。
そして。
「ごきげんよう、ルーカッセン公爵子息……それから、浄化の力を持つ聖なる乙女」
人をからかうような色が混じった高い声。
それが、裏庭に響いた。




