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29話 鏡の精は猛省する

 ああ、やってしまった。

 昼休みのお膳立ては、完全に失敗だった。


 甘酸っぱい進展を期待して出て行けば、甘いとは真逆。苦々しい顔をした、ご機嫌斜めなルヴァがいて……。


 ――ああ、思い返しても憂鬱で恐ろしい時間だった。

  

 ルヴァは完全にお説教体勢で、助けてくれとスィーヤに救いの手を求めたけれど、奴は「若いねぇ」なんて言って傍観気取ってた。

 ティアも、申し訳なさそうな顔をしつつも「ごめんなさい。こればかりはルヴァイド様に頑張っていただきたいので……」と援軍要請を拒否。

 味方のいない状況で、ルヴァから早とちりを責められ、耳年増でゲスな勘ぐりと叱られ、最終的にはティアとルヴァに「ごめんなさい」と頭を下げて、ようやく許してもらえた。

 

 もしかしたら、照れ隠しの一種だろうかと思ったけど、ルヴァだけじゃなくティアにも笑顔で否定されたので……。

 まぁ、今すぐくっ付けとか思っているわけじゃないし、当人たちの気持ちもあるし……私がこれ以上口を挟むのはやめようと決めた。断じて、ルヴァが怖かったから、じゃない。


 私が反省した後は、和やかなお喋りタイムになって、それ以上はなにも起こらず一日が終了したわけだけど……。

 学生寮の自室に戻ってきたルヴァの机に向かう背中をじっと見て、私はなんか変だと違和感が拭えない。

 だから、勉強に集中していただろうルヴァの手が止まる頃合いを見計らって、声をかけた。


「ねぇ、ルヴァ……」

「どうした?」


 公爵家のルヴァは、ひとり部屋を使っている。だから、こうして気兼ねなく鏡の外に出てきて話が出来るのはありがたい。


「あのさ……やっぱり、まだ怒ってる?」

「なにが?」

「……昼間の……」


 思わず言葉を濁す。

 昼休みの件から、ルヴァの様子がおかしい。なんだかピリピリしている気がするのだ。

 だから、恐る恐る聞いてみると、ルヴァの眉間のしわが一瞬ぐっと深くなった。

 

(ひぃぃっ! もう、その眉間のしわが答えだよね!?)


 これは、今さらなにかを問うまでもない状況だ。

 ルヴァは、ものすごく怒っていたに違いない。


「やっぱりぃぃっ! ごめんね、余計なお節介して!」

「…………」


 沈黙するルヴァ。

 気を利かせたつもりが、こんな風に激怒させるなんて。

 

(恋愛になにかトラウマでもあるのかと疑うレベルの拒否反応……――はっ!?)


 ここでようやく、私は問題とやらかしに気付いた。


(ルヴァの父親は、アレじゃん!)


 奥さんと息子ほったらかして、よその家の娘さんに父親面していたルーカッセン公爵の姿が頭の中に浮かぶ。


(そうだった……ルヴァの家庭は……)

 

 上手くいかなかった両親を見てきたルヴァだもん……(主に、髭取れ野郎のせいだけど!)もしかしたら、恋愛とか、男女を結びつけるものに、苦手意識があるかもしれない。

 可能性は大いにあるのに、失念していた私が大馬鹿だ!


(甘酸っぱいとか言ってる場合じゃなかった……ルヴァにしてみれば、強制的にお膳立てされたあの状況、胃液の味かもしれなかったのに……)


 それを無神経に流して、居眠りしていた私に対し、ルヴァが昇華しきれない怒りを抱いていてもおかしくない。

 むしろ、ティアやスィーヤの手前、あれだけで許してくれた可能性もある。


「……本当に、余計なお節介だと思っているのか」

「は、はい……! それはもう!」

「……もう、二度としないか?」

「え?」


 ルヴァが椅子に座ったまま、じっと私を見上げている。

 目付きは鋭いけれど、声と表情はどこか不安そうだ。


(これは、やっぱり……トラウマ踏み抜いた!)


 なんてことをしてしまったんだ。

 ルヴァの薔薇色学園生活を願っていた私なのに、自分の手でドブ色に変えてしまったなんて……!


「ご、ごめん。本当に、もうしない」

「二度と、僕と他人を恋仲にしようなどという、ふざけた真似はしないんだな?」

「しません!」


 ここは、誠心誠意答えなければならないと、私はルヴァの問いかけにしっかりはっきり答えて大きく頷いた。心の中でも、もうしませんと繰り返す。


(だって……ね、ティアでもダメなんだから)


 あれだけ心を許しているティアですら、まだ、ダメなんだもん。

 他の誰が相手でも、無理でしょう――今は。

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