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2話 むしゃくしゃして逃げた今は反(以下略)

「しっかりしろ! どうして消えかかってるんだ……瘴魔を退けたのに――まさか、そのせいか? 僕を助けたせいなのか――!?」


 子供の声が聞こえる。

 ものすごく慌てて、泣きそうで、聞いてるこっちが罪悪感で押しつぶされそうな――。


「僕が悪かった、鏡の精! お前まで、僕を置いていかないで……死なないでっ!」


 正直、可哀想すぎて聞いていられないレベルの悲痛さに、私は力の入らない体を叱咤し、なんとか目を開けた。

 そこには、ボロ泣きしている男の子。

 あぁ、この子はたしか……。


「る、るう゛ぁ――」

「そ、そうだ、僕はルヴァイドだ! やっぱり、僕たちの事を知っていたんだな、だから、助けようと出てきてくれたんだ――それなのに僕は……」


 ルヴァイド。フルネームで確認はしてないけど、はっきりと頷いたから、確定だよね。

 かませ令息だ……!

 私の内心なんて知らない彼は、突然名前を呼んだことを不審がるどころか、一人納得している。

 刺々しい態度もなく、むしろ、心配されてる?


 ――おかしいな。ゲームのルヴァイドは弱者の苦痛を楽しそうに眺めるのが好きで、弱っている人に石投げるような性格だったはず……。


「鏡……鏡だ! 今、大鏡に連れて行ってやる」

「かが、み?」

「母様が言ってた、大事な揺り籠なんだって。だから、鏡に入れば、きっと元気になる。だから……」


 私を抱えてグズグズと泣いているルヴァイドには、弱者に石ぶつけたりする……そんなゲス片鱗は見あたらない。

 ただ純粋に、酷いことを言った自分を責めて、ちょっと目を離した隙に弱っている私を心配している。


(なんだ、この子……)


 窓にもたれかかる形で倒れていたらしい私を、ルヴァイドが大鏡へと運んでいく。

 不思議なことに、私の体はまるで水にのまれるように、鏡の中へ沈んだ。


 ――そのとたん、あれだけしんどかったのが嘘みたいにスッキリした。


「よかった……もう、平気か」


 その場に座り込み、安心したように笑うルヴァイド。目元が赤いのは、泣き腫らしたからで……彼のお母さんの体は、まだそのまま部屋にあった。

 本当なら、誰か大人が来るまで近づきたくなかっただろうに――この子、心配して戻ってきてくれた?


(うそ、すっっごい、いい子じゃん!)


 ――ソーマ様に比べて、お前はいいよな。あれだけクズな真似して庶民落ちですむんだもん。

 

 なんて、そんなことを考えていた自分が恥ずかしい。


 この子はルヴァイドだけど、あのルヴァイドじゃない。

 可能性はきっと、無限にある。


 私が……諸悪の根源である私が、バカな真似さえしなければ、彼も悪事とは無縁で「かませ令息」なんて呼ばれない、平穏な人生があるのでは?


 そう思った私は、恐る恐る名前を呼んだ。


「あの、ルヴァイド?」

「――うん? ああ、ダメだ、外に出てきたら!」


 うわぁぁ! やっぱりいい子だ!!


「えっと、あの……私、何が何だかよく分からないんだけど――助けてくれて、ありがとう」

「……こちらこそ、だ。鏡の精。……ルヴァイド・フォン・ルーカッセン、心より感謝する」


 小さな手を鏡に重ね、ルヴァイドは泣きそうな顔で微笑んだ。


 ――これが、私と彼の出会いだった。

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