24話 物語のはじまり
――こんな日が続けばいい。そう祈った頃が懐かしい。
(ついに、この日が来た)
私はルヴァの胸ポケットにある手鏡の中で、ひとり震えていた。
けれど、怖いからじゃない、これは武者震いだ。
(あ~ウソ、超ウソ。やっぱり怖いよ)
自分を奮い立たせる目的で虚勢を張ってみたけれど、秒で崩れた。
やっぱり無理だった。
なにせ、これから一年で私のデッドオアアライブが決まるのだ。
そう――今は、王立学園の入学式まっただ中。
厳かな雰囲気に包まれている講堂に集まるのは在校生と、真新しい制服の新入生。
外に出てないから、想像だけど、入学式の雰囲気なんてそんな感じだろう。
自分が出席しない身分のくせに、私がブルブルしているのは、この入学式が全ての始まりだから……つまり、ゲームのオープニングなのだ。
(この一年で、生き死にが決まる! ルヴァを庶民落ちになんてさせないし、私だって死なないぞ……!)
いや、ルヴァは悪いことしないから、庶民落ちの心配はほぼないと思うけど……万が一、それこそ嵌められるとかあるかもしれないじゃないか!
(まぁ……一番なにかしでかしそうな公爵は、もう別邸暮らしだけど)
アイツ、今なにしてんのか知らないけど、仕事はほとんどしていない。
だって、ここ何年かは、ルヴァに流れてきてる。
勉強の合間に、セバスチャンと書斎にこもり、ルーカッセン家の仕事をこなしていた。
当主代行、とかなんとか……つまり、王家はあの元髭にはもう欠片も期待していないってことだろう。
そんなこんなで、立派にお役目までこなすルヴァ。その努力は並大抵のものではない。
――庶民落ちは、命までは取られないけれどこれまでルヴァが積み重ねた努力、その全てを奪うことだ。
今なら分かる。
ゲームのアレは、決して恩情などではない。優しい罰ではなく、貴族として生まれ育った人間に科す、厳しい刑だったと。
そして今、もしもルヴァが庶民落ちすれば、大喜びするのは――公爵だ。
(そんな胸クソ展開、絶対嫌)
ルヴァはもう悪役令息にはならない。
私は悪いことなどしない。
でも、不安要素はまだ残っているし、見落としだってあるかもしれない。
考えたらキリがない。だから、細心の注意を払ってルヴァの周辺を警戒しなくては。
――新入生代表で登壇している第二王子の挨拶を聞き流しながら、私はそんなことを考えていたのだけれど……入学して数日のうちに、奇妙なことに気付いた。
なんだか、やたらルヴァに絡んでくる人がいるのだ。
友達になりたい!
君に、興味がある!
そんな、友好的な理由でグイグイくるならいい。
だけど、手鏡の中で聞いている限り、どうにも友好的とは言い難い雰囲気だ。
その人物というのが、新入生代表挨拶をしていた第二王子、ジルベルト。
――がっつりゲームに出ている、メイン攻略キャラだった……。




