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23話 鏡の精、ここぞは祈る


 ルヴァの、満面の笑み。


(うぅ、優しい……! 良い子だ! ルヴァは良い子に育った……!)


 この子が、ちゃんと笑えていると、私は嬉しい。


 公爵は家に寄りつかなくても、教え導く存在としてスィーヤがいたし、セバスチャンさんたち屋敷のみんなが、愛情示してくれたおかげだ。

 周りの支えのおかげで、ルヴァはこんなにも、こんなにも良い子に……!


「ルヴァったら、いつの間にか、男前になって……! 私、嬉しい……」

「……そうか、嬉しいか」


 ルヴァが気恥ずかしそうに目をそらす。

 照れ顔は、まだまだ可愛いな~。


 ――こんなに良い子なルヴァだから、私もなにか、お返しをしたくなるのだけれど……現状は独り立ちにはほど遠いから……精進せねば! 


「私、頑張るね! はやく、鏡がなくても動けるように!」

「……っ」

「ルヴァ?」

「……そんなに、急がなくてもいい」


 ルヴァの顔から赤みが取れて、眉間にしわが寄った。


「……急いで、離れなくても……」

「鏡の君~! ご機嫌麗しゅう!」

 

 なにか言いかけたルヴァ。

 でも続く言葉は、やたら生き生きしたクソデカボイスにかき消された。

 鏡から、私は上半身をのぞかせる。

 そこにいたのは、ここ数年ですでに見慣れてしまった派手な頭。


「あ、スィーヤ」

「お会いしたかったですよ、鏡の君!」

「お、おう……スィーヤは今日も、元気だね」

「ははは! もちろんです。健康第一でなければ、宮廷魔術士など、つとまりません!」


 いや、あなたゲームだとめっちゃ不健康でしたよ!?

 内心突っ込みつつ、驚異のキャラ変を遂げたスィーヤから視線を外し彼の数歩後ろにいるローブ姿の美少女に視線を向けた。

 

「ティア! 会いたかった!」

「まぁ、ミラ様……! もったいないお言葉です」


 ふんわりと笑みを浮かべるのは、ここ数年で美少女っぷりにますます磨きがかかったティアだ。

 背景にひらひらとお花が舞うエフェクトが見えるほどの愛らしさだ。


「善き精霊であるミラ様に、ご挨拶申し上げます」

 

 小走りに駆け寄ってきて、ちょこんと礼をする仕草に、ルヴァイドも眉間のしわを薄くさせる。


「ああ、ティア。師匠の相手を任せて悪かった」

「いいえ! 私こそ、ルヴァイド様がミラ様をお迎えに行っている間任されていた、スィーヤ師匠の足止めを全うできずに申し訳ございません!」

「……おーい、おいおい。君たちぃ、なんだか年々、師である私の扱いが雑になってないかい?」


 謝りあう、ルヴァとティア。

 不満そうに唇をとがらせ物申すスィーヤ。

 あのゲームでは考えられなかった、穏やかな日常風景だ。


 これが、五年で培った確かな関係。

 やいのやいのと言い合う三人――おもにスィーヤが弟子ふたりに「冷たくするな~!」と子どもみたいな駄々をこねているだけだけど……――この当たり前が、これから先も壊れることなく続けばいいな……なんて、私は少しシンミリとした気持ちになった。


(ルヴァたちは十五歳……あと一年か)


 そう――十六歳になったら、ルヴァもティアも王立の学園に入学する。

 才能があると認められた平民と、家柄の優れた貴族と、そして民と近くふれあうためという触れ込みで王族が、三年の間だけ同じ学園に籍を置くのだ。


 そして、それこそがゲームの始まり。


(ティアとの関係は良好だし、スィーヤも無気力キャラ返上で、面倒見のよさを発揮、いつも楽しく授業してくれてる。セバスチャンさんたち屋敷の人たちも、ルヴァに肯定的。公爵はこれまで通りの生活をスィーヤに提示されていた通り、別邸で楽しくやってるみたいで接触禁止は守ってるから……大丈夫)


 原作と同じ人、少し変わった人、変わった関係、色々な要素はある。

 けれど、ゲームのルヴァイドと違って、ルヴァは一人じゃない。


 支えてくれる人たち、切磋琢磨し合う友人、そして教え導いてくれる師がいる。


(これから先も、きっと大丈夫)

 

 ――私とルヴァ、そしてティアの運命が大きく動く、ゲーム開始軸である学園入学まで、もう一年に迫ったある日のこと。

 私は、ルヴァが笑っていられる日常がこの先もずーっと続きますようにと祈った。

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