22話 あの子が近頃甘すぎる!
「ルヴァに似てるから!」
私の言葉に、ルヴァは圧のある笑みを引っ込め、パチパチと無防備に目を瞬いた。
「……僕に?」
「そう! かっこよくて仲間思いで、優しいんだ! ――ね、ルヴァみたいでしょ! 私、大好きなの!」
どうだ! ウソは言っていない!
ゲームのルヴァイドとソーマ様は似通う点は声帯くらいだが、ルヴァは……私がこの世界で出会い今日まで接してきたルヴァは、優しいしティアやスィーヤ、セバスチャンさんたち周りの人たちを思いやる心を持った、めちゃくちゃカッコイイ子に成長した。
「……そうか、大好き、か」
ルヴァが口元を片手で隠し、横を向いた。
「うん、大好き」
「――っ、そうか。……それなら、いいんだ」
ルヴァは納得したように頷いた。
これで、よし……だけど、これは、ハッキリ伝えておかないといけないかな。
「あのね、ルヴァ。変な奴がいたら、私はちゃんとルヴァに伝えるよ。……その前に、捕まえちゃうから。ルヴァのことは私が守るんだから」
大鏡の中から私が抜け出すと、ルヴァは渋い顔をする。
「君はそんなことしなくていい。……そんなことにならないために、僕がいるんだ」
「ルヴァはルーカッセンの家を守らなくちゃいけないでしょ。それに、ルヴァのおかげで私、こんなに元気なんだから、悪者くらい捕まえるよ」
ま、まぁ、人間の悪者に限定するけど。
あと、そんな強くない奴で。
戦闘能力的にはスライムレベルを希望……ダメだ。ぶつかられたら鏡が割れる。
「…………」
「どうしたミラ、おかしな顔をして」
「ううん……自分の戦闘能力を考えたら、私、誰にも勝てない気がしてきた……」
「なんだ、そんなことか」
青くなった私とは対照的に、ルヴァは楽しそうに吹き出した。
「だから言っただろう。君はそんなことをしなくていいと。――君のそばには、常に僕がいる。だから、なにも心配するな」
そう言って、ルヴァは私の頭を撫でた。
――いや、コレ完全に逆転しているよ。
(まだ半透明で、完全実体化もできないし……鏡がなきゃ、すぐへばる弱々精霊だからなぁ~)
スィーヤは「まだ五年」というけれど、私にしてみればもう五年だ。
ルヴァの力量は魔術士として素晴らしいものだというのは聞いている。
五年でルヴァはこんなに成長したのに……私は……。
「……落ち込む」
「なぜだ? ……僕に守られるのが、そんなに嫌なのか」
少しだけムッとした様子のルヴァに、私は首を横に振った。
「おんぶにだっこな状態が嫌なの。これじゃ、お荷物だもん。私だって、ルヴァのために出来ることがあればいいのに……」
「――なんだ、そういうことか。……君からは、充分すぎるほどのものをもらっているのだが……当人は分からないものなのだな」
「え」
「なんでもない。ほら、こっちへ来い。今日はティアと師匠が来るんだから」
そう言って、ルヴァは手鏡を取り出した。小さな鏡の中へ意識を集中させると……あら不思議。私の体は大鏡から手鏡の中へ移動している。
「よし。あまり待たせると、師匠がやかましい。行こうか」
「うん。……手間をかけて……いつも、すまないねぇ」
思わず、口調が時代劇のおっかさん風になった。
すると、ルヴァは苦笑する。
「すまない、などと思うことはない。……これくらい、当然だ」
私は魔力のこもった物、つまり媒介同士の間なら移動可能になった。
そこで用意されたのが、この手鏡だけど最初から魔力バリバリだった訳じゃない。
元はルヴァのお母さんの遺品のひとつ……と言っても、大鏡と違い本当に普段使いで持っていたんだろう、ノーマル手鏡だった。
初めて魔力を学ぶには、他の魔力が残っていない道具を使う方が自分の魔力を感じやすい――スィーヤのお墨付きをもらい、ルヴァは手鏡訓練を開始した。
そんなルヴァの努力の結果――毎日毎日魔力を込めていた手鏡は、私の第二の揺り籠になったのだ。
毎日大鏡を運ぶ皆様には申し訳なかったので、本当にありがたい。
けれど、今度はルヴァが毎日手鏡を持ち歩くはめになった。
邪魔だよね、ごめん!
そんな心境だけど、ルヴァは文句を言ったりしない。
(――こういうことを、当たり前のようにしてくれるルヴァだから、私だってなにかお返しがしたいのに……本当、はがゆいなぁ~)
そう思って鏡の中からルヴァを見ると、彼は手鏡を自分の目線の高さまで持ち上げて、にっこりと笑った。
「君に関することで、僕が手間だと思うことは、ただのひとつもない」
「――っ」




