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19話 先を生きる【ルヴァ】


 その後、父上と顔を合わせる機会がなかったため、僕は手紙を書いて父上に送った。

 返事がないままヴォーテ殿の元へ行き、彼を介して父上と会うことが出来た。


 父上は、なぜか髭がなくなっていた。


 特別、どうしたのかと気にするほどのことでもなかったので、僕はただ手紙に書いた内容を声に出して伝えただけで終わった。 

 もちろん、父上もこちらに関心を示すことはなかった。


 その後も、父上は僕のすることに反対しなかったが、肯定もしなかった。

 あえていえば、無視が一番近い。


 そのかわり、ヴォーテ殿の養い子であるティア嬢に浄化能力という希有な才能があると分かった際は、自分が教えると言い張っていた。


 その時、僕は思った。

 いや、父上では無理だろうと。

 なにせ、本職ではない。

 周りも同感だったようで諫められたが、今度は自分が見繕ってきた教師を付けると言い出したのだ。


 ティア嬢が、誰に引き取られたか忘れたのか。頭の中身を疑いたくなる愚行だった。

 父上の思いつきは、ヴォーテ殿すらも軽んじる行為だろうに。

 もちろん、これも僕を含む周囲に止められた。

 すると、父上は思い出したように僕を引き合いに出し「邪霊を崇めてきた没落一族の末裔が産んだ子どもと、たぐいまれなる才能の持ち主であるティアを共に学ばせれば穢れが移る」と言い出した。


 それを聞いたヴォーテ殿は速やかに上……すなわち国王陛下に報告し、ティアとついでに僕に接近を禁じる命令が下された。


 この時、僕は気付いた。

 父上は、僕と母上を愛する気が無い。

 嫌いで嫌いで、歩み寄る気など毛頭なかったのだ。

 最初から、否定しかなかったのだと。


 そしてティア嬢は……父上が、あそこまで彼女に……過剰とも思えるほど優しいのは、恩人の子どもというだけではない――父上が結婚したかった女性とティア嬢が、親子であり、生き写しだからだと分かった。


 接近禁止令が出たとき、父上は僕ではなくティア嬢のことだけを気にして、熱心に弁明していた。


 一人前になるまでのけじめとして……という理由を表向きに挙げたので、束の間の別れとして挨拶する場を設けられたのだが……そこで、父上が語ったのはティア嬢への思いだけだった。


 魔女の息子などどうでもいい。

 聖女の娘であるティアこそ、自分の希望であり幸福だから、成長を手助けしたいという父上は――自分の語る言葉の矛盾に気付いていただろうか。


 ティア嬢の育った村は、精霊信仰が厚い村だった。

 すなわち、ティア嬢のご両親も精霊を信仰していた。

 同じく、母上の生家も精霊を信仰していた。――機密だが、守っていたという側面もある。


 父上は機密を知らない。

 けれど、母上とティア嬢の母上には、精霊信仰が共通していることは知っているはず。

 

 だが評価は真逆だ。

 母上に下した評価は「邪悪を崇拝する魔女」であり、恩人の女性は「穢れを知らない清らかな聖女」だという。


 父上は、最後まで僕を見なかった。

 だから、僕も答えを出してしまった。

 自分で、答えを見つけてしまったのだ。


 事実を受け止めたとき、僕よりミラの方が泣きそうだった。


 でも、もういいのだ。

 僕の名前はルヴァイド・フォン・ルーカッセン。


 ――僕自身を見てくれる君のために、僕はこれから先を生きよう。

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