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15話 敵前逃亡、ご自由に


 スィーヤも、執事も……――まだ子どもであるティアまで、驚きと戸惑いと……僅かな嫌悪感を持って公爵を見つめる。


 この間は確かにあったはずの、公爵に対する親しみや感謝。

 それが、今のティアからすーっと抜け落ちていく。

 怯えたように、忌避するように、彼女の足が後ろに下がったことに気付いたのは、公爵以外の全員だろう。


 こんな時まで、息子ではなく血の繋がらない少女を気にする、気持ちの悪い中年男。


 それが、この場にいる大人たちが抱いた共通の認識だった。

 ただ、私はそれだけではおさまらない。

 

(――言うに事欠いて……)


「髭だけじゃ足りない。もうお前なんか、ハゲろクソ野郎」


 思いっきり、毒づいた。

 私に怒りを向けようとした公爵だったが――。


 はらり。


「なっ……」


 赤い顔がたちまち青くなる。

 はらり、ひらりと抜け落ちていくのは、公爵の髪の毛だ。


「の、呪いだ! やはり邪悪な存在め! 今すぐ消してやる!」

「あ~、公爵。下手に動くと風圧で髪が」

「ひっ!」


 スィーヤの助言(?)に、公爵は立ち上がろうとしたのをやめた。

 大人しくなったすきに、スィーヤは私に近づいてきて言う。


「いやぁ~さすがに丸ハゲは気の毒でしょう、鏡の君」

「え、なに、これ私のせい?」


 指摘に、私はぎょっとした。


「はい。先ほどの髭も、この頭髪が抜け落ちるのも、鏡の君のお力ですが……もしや、自覚がない?」

「だ、だって、私はダメダメで弱々な鏡の精ですよ?」

「……なるほど、ルーカッセン公爵子息は、魔術の素養がありながら学ぶ機会が無かった……だからこそ、鏡の君も行動に制限がかかったのでしょう。守り手に充分な魔力と知識がなければ、生まれたての貴方を庇護することは難しい。……魔術暴走を止めたことを切っ掛けに、おふたりの中途半端だった回路が繋がったためこちら側で力の行使が可能になったのでしょうが……怒りでまだ力の制御ができていないようですね――まぁ、髭が取れたり髪が抜けたりというのは、精霊の怒りに触れたあの方の自業自得でしょうが」


 つまり私は、ルヴァの魔力暴走を切っ掛けに、新たな能力に目覚めた?

 なんか言霊染みた力だから、髭も取れたし髪も抜けたってこと?

 付け髭じゃないって怒鳴ったのは本当だったんだ……。

 

 ……なんか怖いな。


「あ、おさまった」


 ふとスィーヤが呟く。


「公爵、もう動いて大丈夫ですよ。怒りが消えたので、髪の毛は抜けません。よかったですね」

「なにがいいものか! 髭は、そこの化け物のせいでとれたのだぞ! はやく殺してしまえ!」

「チッ……頭髪を残してもらえて、感謝すればいいものを」

「なんだと?」

「公爵、今は一時的に怒りを収めてもらっただけです。貴方がここにいる限り、いつまた怒りが再燃するか分かりません。そうすれば……次こそは丸ハ……」

「くっ、私はこの書面を確認し、返事をしたためねばならん! セバスチャン! 後はお前にまかせた!」


 スィーヤの脅しに屈した公爵は、無事だった頭を押さえてそそくさと逃げていった。

 あれほどベタベタ、デレデレしていたティアのことまで眼中にない様子で。


(ティアが大事って言うのも、口先だけっぽい。……余計にキモいな)


 でも、アイツがいるといないのとでは、気分が大違いだ。


「……では、鏡の君。ご子息を渡してもらえますか」

「どこに連れて行く気!」


 ホッとしたのも束の間、スィーヤがこちらに両腕を差し出してくる。

 ルヴァを寄こせという言葉を、どう受け取ったらいいんだろう。


 この人は、裏事情を色々知っている隠しキャラだ。今はなんか友好的だけど……でも……。


「ミラ様、こちらの部屋では坊ちゃまが休めません。かわりの部屋を用意いたしますので、坊ちゃまを……」


 迷っていると執事さんが寄ってきて、私に言った。

当たり前に名前を呼ばれて、普通に話しかけられて、私は驚く。

 

「……知ってたの?」

「はい。ルヴァイド坊ちゃまが、教えてくださいました。鏡の精が生まれたと」

「…………」

「屋敷でも信頼の置ける者達は、奥様の大鏡のお話は伺っておりました。大切な揺り籠なのだと」

「揺り籠?」

「はい。ミラ様、貴方様の」

 

 執事さんは……屋敷の人たちも、知っていた。

 ただ、ルヴァが会わせたがらなかったこと、そして私自身が人前に姿を現さなかったことから、知らない振りを続けていたらしい。


 私が引きこもってたのは、ただ単に鏡から長時間離れられない虚弱体質だったからなんだけど……。

 事実を告げると、スィーヤがあっけらかんと告げる。

 

「それも、私の元で守手であるご子息が修行すれば克服できますよ。そもそも、これだけの才能があるのに魔術を学ばないなんてもったいない」

「奥様は……近々と思っておられたようなのですが、旦那様がどうにも……」

「なるほどね……奥方の意見は全て封殺か……仮にも公爵家の当主が、八つ当たりとは……」


 嘆かわしいとでも続きそうな言葉を途中で切ったのは、ティアが近づいてきたからだろう。

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