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13話 主語はわざと大きくするスタイル

 

 私の一言に、公爵はカッと顔を赤くした。

 やだ恥ずかしい、とかではなく怒ったのだ。


「本物だ! それが、このようなことになるなんて……貴様の呪いだろう! この化け物!」

「はぁ? 付け髭バレたからって、八つ当たりしないでくれません? つーか、近づくな」


 普通なら公爵に対しては、もっとへりくだった態度を取るべきだろう。

 けど、生憎私の今世は人間じゃない。

 ……この元髭野郎に「人外」とか「化け物」とか言われると腹は立つけどまぁ、事実だし……だったら、その事実を思う存分利用させてもらう事にする。


「無礼な……!」

「人外に、人間社会の階級制度に則った礼儀作法を求めるとか、おかしいんじゃないですか? 敬ってほしけりゃ、そっちも相応の態度を取るべきなのに、アンタは最初っからやれ人外だとか化け物とか、挙げ句無礼とか。言わせてもらえば、アンタは余所の女の子にデレデレニタニタしているキモ親父だから。ちゃんとした保護者がいるのに、その人との間に割って入るようにしてベタベタ、ベタベタ――辛い思いをした息子に寄りそうでもなく、頑張ってきたこの子を褒めるでもなく、口を開けば責めてばっかり。しかも、全部的外れだし。……言っておくけど、奥さんの葬儀の手配を丸投げして息子に押しつけて、当日だけ、さもやりましたみたいな顔して居座ってたアンタの正体なんて、みんな知ってるんだからね!」


 一息に言い募れば、公爵は「は?」とか「なんだと?」とか「斬るぞ!」とか騒いでたけど――最後の「みんな知ってる」で固まった。


「は、はったりだ。誰がお前のような人外の言葉」

「私はまぁ、ダメダメな鏡の精だけど……ルヴァは違うでしょ。ルーカッセン公爵家の嫡子として、大事な時まで家に寄りつかない父親にかわり、立派に葬儀の手配を済ませ式を取り仕切った、立派な貴族。……いい? これは、私があちこちで言ったことじゃない。実際に目で見た人たちが、言ってることだから」


 貴族は体面を重んじるというのは、やっぱりどこの世界でも変わらないようで、公爵はぐっと顔をしかめた。

 きっと頭の中では、あの家やこの家と、次々有力者の顔を思い浮かべて慌ててるんだろう。

 

(ふん。せいぜい、慌てて青くなればいい。それで、よその家に見当違いの言い訳でもしにいって、盛大に自爆すればいいんだ)


 私は、ここから離れられない。しがない鏡の精だ。

 葬儀の様子なんて詳しく知るわけがない。

 参加者なんて、なおのこと。


 つまり――私のいう「みんな」とは、使用人の方々のことだ。

 部屋掃除の時に耳に入る噂話や他愛ないお喋りなどから仕入れた情報を、私は主語を大きくして語っただけだ。


(ま、私の活動範囲のみんな、だからウソはついてないし)


 それを、バレたらマズいという自覚はあった元髭がさらに拡大解釈しただけなので、問題ない。

 

(ざまぁみろ!)


 なんて、心の中で舌を出していたら、公爵は青筋を浮かせて私をにらむ。


「おのれ! 人心まで操るか、この邪悪め!」


 髭がなくなって、こざっぱりしたイケオジ……だけど、やっぱり嫌悪感がわく公爵を、私もにらみ返すと……相手はとうとう剣を振り上げた。

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