9話 再来訪の目的
これまで屋敷に寄り付きもしなかったルーカッセン公爵は、またあの二人を突然連れてきた。
ルヴァは、三人の相手をしなきゃいけないから、勉強も鍛錬も途中で切り上げている。
(後からルヴァが課題をこなしているの、公爵はちゃんと分かってんのかな?)
少しくらい、息子を褒めればいいのに。
(そういえば、ゲームでも触れられてないけど……ルーカッセン公爵って、なんでルヴァに冷たいんだろ?)
ゲームだと、ルヴァイド・フォン・ルーカッセンは悪役だった。
父親に省みられない息子だとしても、それは普段の積み重ねのせいで見放された結果……みたいだった。
明確な理由が示されたわけじゃない。
たまに出てくる公爵が、ティアの頑張りを褒めたりするとき『息子も、君のように学ぶ意欲を出してくれたら』とか言って呆れてる感を出していただけだ。
(反抗期拗らせた息子の暴走とかでもないし……現状を見ている限り、どう考えても父親に問題があるでしょ)
ルヴァを褒めない、ルヴァに冷たい、ルヴァの心のケアをしない。
そもそも家に寄りつかない。
ないない尽くしの髭公爵は、一体なにを思って、またあのふたりを連れてきたのか。
鏡の中で、私が思案していると、ルヴァの部屋の扉が静かに開いた。
(ルヴァ? ――っ)
あの子が、様子を見に来たのかなと思ったけど、すぐに違うと思い直す。
だって、ルヴァは来客応対中。
本当なら公爵がふたりを持てなせばいいのに、あの髭は自分も持てなされる側で当然みたいな顔で、色々とルヴァに気を遣わせているらしい(掃除中の使用人情報)――だから、ほいほい抜けてこれるはずがない。
(ど、どうしよう、まさか泥棒? 公爵家に?)
その間にも扉は徐々に開かれて、室内に人影が忍び込んで来た。
――長いローブに、毛先だけ色の違う派手な配色の髪……。
目立つ特徴を目にした瞬間、私は自分が命の危機に直面している事に気付いた。
「やぁ、鏡の中の方。ご機嫌麗しゅう」
全体的に、ゆるっとした雰囲気だが、ゲームより生き生きしている。なんというか、無気力さを感じないが……。
(ひぃぃ、やっぱりバレてた! スィーヤイェン・フォン・ヴォーテだぁぁっ!)
それでも、現状私にとってもっとも危険な男が、鏡の前に立ち、芝居がかった礼をした。
奴はコンコン、と鏡の表面をノックしてくる。
(る、留守で~す……なんちゃって……)
反応ないから諦めて立ち去ってくれる……わけもない。
「ご子息は今、公爵とうちの養い子の相手で手一杯で、しばらく身動きが取れない。使用人たちの目も、みんなあの三人に向いている、まぁ、少々人払いの術も使わせてもらったので、私はこうして穏便に、ご子息の部屋に忍び込めたというわけだ。――私はあの日、貴方を見た。貴方も、私を見ていた。……用件は、分かっているんだろう?」
いや、知らないから。
ってか、全部独り言ですよ~、お引き取り下さ~いと、私は耳を塞いで完全無視を決め込んだつもりだったが……。
「あ、無視。無視ですか、なるほど。……それなら、ルーカッセンのご子息に聞くしかありませんね。下手をすれば、ご子息は公爵の不興を買い、罰を与えられかねませんが」
「はぁ!? ちょっと! ルヴァになにする気!?」
不穏な言い回しに、私はつい反応してしまった。
「ああ、やはりいらっしゃった」
にっこり笑ったスィーヤが鏡に手を当てると、周りに魔方陣が浮かぶ。
(え、うそ!)
魔方陣がキラキラ光ったかと思うと、私は鏡の中から引きずり出された。
「ようやくお会いできましたね、鏡の方」
スィーヤは笑顔で鏡から出てきた私に手を伸ばしてくる。
「ひぃぃぃっ!」
殺される!
そう思った私は、とっさにあの子の名前を呼んでいた。
「助けてルヴァ……!」
(本編すら始まってないのに、隠しキャラに殺されるよ~!)
――離れた所にいるルヴァに、届くはずのない叫び声だったから、あの子が来るはずないんだけど。




