96.おみやげ配り②
第96話
「ごきげんよう、二条様。遊園地のおみやげを受け取って貰えますか?」
「れっ!!玲奈が俺にっ⁉あっ...ありがとな、受け取っておく。」
私が兼光におみやげを渡すと兼光は顔を真っ赤にして狼狽した様子をみせながらもおみやげを受け取ってくれた。
(もしかして...おみやげに不満だったのかな?)
同じ公爵家とはいえ、岩倉家よりも格上の二条家の長男に失礼な物を渡したとなると何かと面倒事が起こるかもしれない。
「あっ...あのっ‼おみやげにご不満があるならお取り替えしましょうか?」
「えっ⁉いやいや‼全然大丈夫だ!俺は玲奈の選んだ物ならなんでもありがたい!...じゃあ、今日はこれで‼」
「ちょっ...二条様⁉」
私がそう聞くと兼光は顔を真っ赤にしたまま三聖室から出ていってしまった。
「やっぱりおみやげが不満だったのでしょうか?だからあんなに顔を真っ赤にして怒って...」
これは今度お詫びに行かないといけないパターンかな?なんて思っていると、
「はぁ...やれやれ、玲奈ちゃんは男心が分かってないな~。」
「尚様...」
私の呟きを聞いていたのか三聖徳会会長の尚喃磨がニコニコしながら私に近づいてきた。聞いた噂だと兼光と喃磨は年は離れているけどそれなりに親しい間柄だという。そのため、兼光の考えが分かったらしい。
「男心ですか?」
「うん、さっきの兼光君は怒ってないよ。単なる照れ隠しだから安心しな。」
「そうですか?いや、そうだといいんですが...」
この世界の兼光はゲームの時とは違って私を多少は異性として意識してると個人的には思ってはいたけどたかが遊園地のおみやげであそこまで照れるもんなんだろうか?まぁ、とにかくおみやげに不満があるとかじゃなくて助かった。
「玲奈ちゃんは兼光君の事は好きなのかい?」
「えっ⁉私がですか⁉」
いきなりとんでもない事を言われて私は困惑する。兼光は多少は私を意識していても本当に好きなのは高野藍葉1人だし、何より今後現れるであろうヒロインと結ばれるかもしれないのだ。それが分かっている私は自分の気持ち以前に兼光がそういう対象なのかなど考えてすらいなかった。
「自分でもよく分かりません...二条様には他にもお似合いの相手はたくさんいるでしょう。仮に私と結ばれたとしてもそれはお互いの親同士の意向とかだとそこに本当の愛が存在するのかも怪しいし...それだと二条様を不幸にしてしまうかもしれないから怖いんです...ただ、二条様が嫌いというわけではありませんよ。」
「まぁ、上位の家になるほど恋愛って悩むものだよね...恋をしてもそれが叶わぬものになる確率も高いし...だからこれからゆっくり兼光君との距離を縮めて欲しいな。先を急ぐ必要はないから。」
話し終えると喃磨は私の耳元で囁いた。
『困った事があったらこのお兄ちゃんに言うんだぞ。』
と。
「ちょっ‼恥ずかしいです!妹扱いしないで下さいよ!はい‼遊園地のおみやげです!奈乃波さんにも渡しといて下さいね‼もう失礼しますぅ!!!!」
「おわっ‼」
不覚にもドキッとしてしまった私はそのまま喃磨におみやげを放り投げると三聖室を飛び出してしまった。
(あのまま三聖室にいたらおかしくなりそうだよ...)
奈乃波さんにおみやげを直接手渡せなかったのは心残りだけど戻ったら戻ったで喃磨にからかわれそうだし...喃磨がちゃんと奈乃波さんにおみやげを渡してくれると信じるしかないか...
・・・・・
(やれやれ、ちょっとからかいすぎたかな~?)
玲奈から放り投げられたおみやげの中身の無事を確認しながら喃磨はついさっきの事を思い返していた。
「てっきり即座に好意を認めて僕に協力を求めるかと思ってたよ...噂には聞いてたけど岩倉玲奈...本当に面白い子だね。兼光君、君が彼女のハートを貫くのは容易じゃなさそうだ。」
喃磨は改めて岩倉玲奈がただの公爵家のお嬢様ではない事を悟った。いくら兼光でも彼女の心を掴むのは簡単ではなさそうだ。
「三聖徳会会長として二人の関係を良い方向に導いてあげれれば良いんだけど...」
玲奈の知らないところでこの男が動き出したのだった。
 




