89.遊園地を満喫!その①
第89話
皆が走り出したのを見届けた後、
「玲奈お嬢様、私達も向かいましょう!」
「そうですね、姫香。」
私は姫香を護衛に連れて遊園地内を歩き始めた。本来、今日は姫香も休暇を貰える日の筈だがわざわざ私達のために来てくれたのだ。本当に感謝しかない。
「さて、玲奈お嬢様、何から乗りましょうか?」
「そうですね...まず、姫香の希望を聞きましょう。」
「えっ⁉私のですか?」
休暇を返上してまで私達に付き合ってくれた姫香にも少しぐらい楽しい気分を味わわせてあげたい。そんな気持ちで私は姫香の希望を聞くことにした。
「私は玲奈様が望む場所ならどこでも...」
「今は貴女の希望を聞いてるの。もう一度言うわ、貴女はどのアトラクションに行きたい?」
いつものように、姫香は私に謙遜してくれてるようだが今日に限ってはそれではダメだ。姫香にも楽しい思い出を作って欲しいのだから自分の意志で答えて欲しい。
そんな私の意図を汲んでくれたのか、姫香は少し悩んだ様子を見せた後、
「では、最初はジェットコースター...スカイ号に乗ってみたいです。」
と言ってくれた。
「よく言えましたね...分かりました!スカイ号乗りましょう‼」
「はっ、はい‼」
自分の意志で答えてくれた姫香を褒めながら私達は記念すべき最初のアトラクションに向かったのだった。
45分後...
「玲奈お嬢様!次はこのサファイアコースターとスターパレス号、そして空中コースターとマジカルUFOと逆回転ソラ丸に乗りましょうよ‼」
「全部高所系じゃないですか...勘弁してください...」
スカイ号に乗った事で姫香の頭の中のネジが外れてしまったようでその後、何個も高所系のアトラクションを回る羽目になったのは別の話...
・・・・・
「ちゃんと撮れてる?お父様とお母様に見せたいんだから!」
「ちゃんと撮れてるのでご安心下さい。奏お嬢様。」
奏が最初に向かったアトラクションはスカイキャットランドというものだった。簡単に説明すると翼の生えた猫のゴンドラに乗るとそれが音楽に合わせて回転し始めるというアトラクションだ。
(遊園地なんて私がまだ1歳の頃に1回行ったっきりらしいけど全く記憶に残ってないから実質これが初めての遊園地なんだよね...)
昔は両親や姉との関係は最悪だったから家族揃って出かけることはほとんどなかった。今でこそ両親とは和解しているが姉である沙羅とは険悪な状態が続いている。両親が急に奏に優しくなったのが許せないのだろうか。
「まあ、今はそんな事は忘れて楽しい思い出作ろっと‼さあ、次のアトラクションに向かうわよ!」
「あっ‼奏お嬢様!人が多いので迷子にならないように気をつけて下さいね!」
こうして奏は次なるアトラクションへと向かったのだった。
・・・・・
「ねぇ、あの女の子可愛くない⁉」
「ほんと!あのウサギの乗り物がよく似合ってるわね‼」
この日、たまたま遊園地に遊びに来ていた二人の女子大生が指さす先には、
(こんなに注目されるとちょっと恥ずかしいですね...)
ウサギの形をしたメロディペットに乗る清芽の姿があった。
時を遡る事、30分前...
「あれに乗ってもいいですか?」
「いいですけど意外ですね。清芽お嬢様だったら律儀にまずはご家族へのお土産を買いに行くと思っていたので...」
清芽が選んだアトラクションはウサギの形をしたメロディペットだった。これは単に200円入れれば一定時間だけ簡単な操縦ができるという、汽車と並んでお子さま向けのアトラクションだった。
清芽がなぜこのアトラクションを選んだ理由....それは、
(あのウサギさん可愛い‼モフモフしたい!)
単純な好奇心に過ぎない。皆には黙っているつもりだが、清芽は昔からウサギが大好きで自分の部屋には大量のウサギのぬいぐるみがあるくらいなのだ。しかもこのメロディペットはこの遊園地では珍しく宝石ではなく、普通のぬいぐるみなどに使われる綿でできているというのも清芽の好奇心を助長したのだろう。
今いる清芽の使用人は当然、それを知らないため、普段は真面目で落ち着いてて大人びてる清芽がなぜこのアトラクションを選んだのか分からない。
そんな感じでさっそくメロディペットで遊び始めた清芽だったが、何故か先程から周囲からの視線が自分に向いている事に気づいて今に至るといった所だ。しかも何やらコソコソ囁かれている。
(やっぱり...そういう事でしょうかね?)
クリスタルアイスシティーは貴族も平民も関係なく色々な人達が集う場所だ。そのため、自分みたいな護衛付きのお嬢様が遊園地の目立つ場所でメロディペットなどに乗っていれば嫌でも視線が集まってしまうのだろう。
「なぁ、あの女の子どっかのお嬢様かな?」
「マジ可愛いよなー‼俺、お持ち帰りしたいくらいだぜ。」
「やめとけって...そんな事したら逮捕じゃ済まねぇよ...」
「冗談だって‼ハハハ‼」
自分1人でさえ、この有り様なのだ。もしこの場に玲奈がいたらどうなっていた事だろう?
そんな事を考えていた清芽だったが...
「もう1回‼もう1回‼まだまだ遊び足りません!」
「いいですけどこれで26回目ですよ...そろそろ別のアトラクションに...」
「黙ってなさい!」
「はっ、はぁ...」
こうして清芽は1時間近くもの間、ウサギのメロディペットを独占し続けたのだった。
あと2、3話ほど、ほのぼの回になりそうです。




