76.ゲームでは分からなかった背後関係
第76話
父の口から出てきた二つの家の名前、1つは莱們ちゃんと耀心くんでお馴染みの三条家。もう1つは中山家という家だった。
(中山家って私の知ってる限りでは岩倉家と何の接点もないはずだけど?)
私がそう思うのも無理はない。中山家は藤原北家花山院家の支流にあたる家で公家としての羽林家である。本来ならば与えられる爵位は伯爵止まりの筈だったが、当時の中山家当主が天皇陛下の外祖父だったという事情があって2つ上の侯爵の爵位を与えられた家だ。
そのため上位の貴族達の間では中山家は『お情けの侯爵家』などと言われて岩倉家や三条家以上に快く思われていないらしい。
だが、何故か上位の貴族達が表立って中山家を排斥するような様子は見られない。それは中山家が侯爵の爵位を与えられたもう1つの理由があったと言われている。実は中山家は藤原一族の男系血統を絶やす事なく守り続けている数少ない家だったのだ。
中山家は同じ藤原一族の中で男系血統が絶えたら度々養子を輩出するなど重要な役割を果たしてきた。奏ちゃんでお馴染みの大炊御門家や摂関家の1つである一条家も血統上は元を辿れば中山家に通じるとまで言うのだからその凄さは分かるだろう。
私が疑問に思うのはなぜ中山家の人間が私を狙うのかという点である。しかも、父が言うには中山家は私を狙うのみならず、社交界で岩倉家の悪評を広めていたらしい。なぜそこまで岩倉家が恨まれなければならないのだろう?
すると、私の考えを察したかのように父が口を開いた。
「玲奈は知らなかったかもしれないが、中山家は前から岩倉家を酷く恨んでいるみたいなんだ。」
「その理由は何なんですか?」
「恐らく、元々が格上だった三条家と違って、元々は自分達と同格程度でしかなかった岩倉家が一気に中山家より格上の公爵の爵位を得たのが原因だと思っている。」
「なるほど...」
父の考えは理に叶っている。中山家は当時の天皇陛下の外戚であり、藤原一族の男系血統を守り続けてきたという誇りがある。そのため、自分達が他の羽林家より優遇されて当然と思っているような節があったかもしれない。だからこそ自分達は侯爵家で岩倉家が自分達より上位の公爵家というのは我慢ならなかっただろう。
ちなみに本来ならば爵位は伯爵止まりだが、侯爵の爵位を与えられたという点なら四条家も該当する。だが、四条家は特に岩倉家を非難する事はないし、中山家も四条家に関しては特に悪評を広めるなんて事はしていない。
(つまり中山家が言うには羽林家は最低でも自分達と同格以下でないと気がすまないってことかしら?)
そうなると中山家が岩倉家を恨む理由がはっきり分かる。だが、あくまでこれらは中山家側の勝手な言いがかりであり、岩倉家も公爵の爵位を与えられる程の大功を挙げたという事実があるのだから文句を言われるのは筋違いだろう。
「では、三条家の人間はなぜ私を狙うような事をしたのでしょうか?」
私はもう1つの疑問を父に聞いた。中山家はともかく、なぜ仲がいい三条家の人間が私を狙うのか理解できない。
「すまない、それは私にもよく分からないんだ。ちなみにこの事は現当主の牟多君ですら把握できていなかったらしい。」
私は個人的に三条家とは莱們ちゃんや耀心くんと上手くやっていた自信があるし、二人の親からも私はそれなりに気に入られていた筈だ。ましてや三条家は公爵家の中で岩倉家と唯一、友好的とも言える家で代々仲良くしてきたというのに...
(三条家の中にも私を快く思わない連中がいるってことね...よく考えればそもそもゲームでは将来的に三条家と岩倉家は敵対関係になるのだから、ある意味当然なのかな?)
三条家と敵対する事になる耀心くんルートでは最初こそ莱們ちゃんや耀心くんは玲奈お嬢様と敵対するつもりはなく、玲奈お嬢様にヒロインを認めさせようと尽力しており、玲奈お嬢様もヒロインの事は嫌っていても三条姉弟の事はまるで本当の妹と弟のように可愛がっていた。
だが、中盤になると突如として姉弟は玲奈お嬢様を断罪し、やがては自殺に追い込んでしまう。二人は玲奈お嬢様を裏切ったのは泣く泣くだったと言っていたが、なぜ急に心を鬼にして、つい最近まで慕っていた玲奈お嬢様を裏切ったのかは言及されていない。
ヒロインと結婚するためだけならば、岩倉家より格上の公爵家や皇族に取りなして貰うとか、家を捨てて駆け落ちするといった選択肢もあっただろう。
しかも玲奈お嬢様は度重なる姉弟の尽力もあって心のどこかでヒロインを認め始めようとしており、、姉弟も玲奈お嬢様とヒロインが仲良くなる事は不可能じゃないのだと希望を見いだしていた矢先の出来事でもう今更、わざわざ裏切って断罪する必要などなかった筈だ。
(つまりその...岩倉家を快く思ってなかった誰かが二人を唆したということ⁉)
だとすればそれはいったい誰なのだろうか...
 




