72.歴史改変と修正力
第72話
おばあさんがみせた『ミラピュア完全攻略ブック』は私がこの世界でも欲しくて仕方のなかったものだ。一応プレイしたとはいっても、今ではうろ覚えのシーンもある...特に中等部辺りの記憶が少し抜けているし、ましてや登場キャラの裏設定などに至ってはもうほとんど覚えていない。
「お願いです!それ私に下さい‼」
「それはダメじゃよ。玲奈さんは見たところミラピュアをプレイした経験があるだろ?私に至ってはいまだにこの本がないとこの世界では生きていけんよ。」
「ううっ...」
確かにおばあさんに言われた通りの為、私は返す言葉が出なかった。
「話を続けるが歴史を変えるのだけはやめておきな。いろいろと悪影響が出かねんからね。」
「でっ...でも‼ゲームの玲奈お嬢様の悲惨な末路を知ってるのにそれと同じ道を歩めと言いたいんですか⁉」
おばあさんが言ってる事は玲奈お嬢様になった私にゲーム通り大人しく断罪されて悲惨な道を歩めという意味だ。まぁ、歴史を変える事で多少の弊害が出る事は当然私にも分かるのだけど...
「というか、もう既に影響が出てる子もいるんじゃ。数日前にゲームセンターで急に倒れた女の子がいたじゃろ?」
「何でその事を...」
「あの日、私もたまたまその現場に居合わせたんじゃ。」
(なるほど...)
あの時、私は滓閔の事で頭がいっぱいで周囲に誰がいたなんて覚えてなかった。恐らくおばあさんは意識を失っていた滓閔に駆け寄る私を目撃したんだろう。その結果、滓閔が私...岩倉玲奈と関わりのある人物と推測し攻略ブックを確認して有明滓閔という少女を知ったに違いない。
「その、有明滓閔とかいう少女に今までおかしいところはなかったかね?」
滓閔におかしかったところねぇ、心当たりが...
......ありすぎる‼
天然でマイペースとかいうキャラの割に普段はまともで天然発言後の記憶がなくなるとか‼どう考えてもおかしすぎるよね!
「じゃあ、このページを見てご覧よ。」
そう言っておばあさんは攻略ブックの35ページを開いて私に見せてきた。そこにはとんでもない事が書かれていた。
(えっ⁉ちょっと待って‼こんな裏設定が⁉)
ちなみに攻略ブックの前半のページはミラピュアに出てくる登場キャラ紹介で埋まっており、32~35ページが滓閔の紹介だった。
(嘘でしょ...)
35ページの内容に驚愕した私は思わず前のページもめくって内容を確認してみた。32~34ページは滓閔の簡単なプロフイールや交遊関係、家系図、性格、成績、名台詞集、そしてルートによってのキャラの微妙な違いまで記載されている。そこまではいいのだが...
問題は35ページだ。そこにはゲーム本編では見られない滓閔の裏設定が書かれていたのだがその内容がやばかった。
『本来はどこにでもいるような普通の女の子だったが明成学園初等部に入学する直前に大炊御門奏によってとあるトラウマを植え付けられ、それ以来このような性格になってしまった。』
『彼女の両親も自分の娘に酷い事をした大炊御門奏を強く恨んでいたらしい。』
これが35ページに書かれていた滓閔の裏設定だ。
(奏ちゃんが滓閔を⁉)
今思い返せば、ゲームの滓閔は奏ちゃん相手だと天然の度が過ぎる発言を繰り返していたし、奏ちゃんが破滅した時には人一倍喜んでるような描写が見られたりと伏線はあった。ゲームの奏ちゃんは自分よりも下の者を見下すような人間だったから滓閔も何らかのトラブルに巻き込まれ、心に傷を負いあのような性格になったとするなら話は分かる。
...だけどこの世界の奏ちゃんは私と出会った事でゲームとは性格が大幅に変わっている。平民である姫由良ちゃんや蛇茨ちゃんも友達と認識して私がいないところでも絡みが多いのがその証拠だ。
つまりこの世界の滓閔は...奏ちゃんと何のトラブルも起きなかった可能性が濃厚なのだ。
そのため、滓閔はトラウマを植え付けられる事もなくなるため、本来の性格で私達と出会わないとおかしい。なのにこの世界の滓閔は本来の性格と天然な性格で人格が交互に入れ替わっている気がする。
「じゃあ、これが意味する事は...」
「そう、歴史が変わった事であの女の子に修正力が働いとるんじゃよ。」
私が言い終わる前におばあさんがそう答えた。だとすると滓閔がゲームセンターで意識を失ったのは修正力の負荷がかかりすぎた原因だろうか?それに天然発言後の記憶がなくなるという不可解な点も説明が付く。
でも、それだと矛盾してる点がある。
「でも...だとしたらおかしくないですか⁉何であの子だけに修正力が...」
「それは私にも分からんよ...」
(私の周囲で修正力が働いてるような子は滓閔だけだよね...)
ひょっとして悪役令嬢サイドやそもそもミラピュアには登場しないキャラには修正力は働かないのか⁉
いや‼だとしても、姫由良ちゃん蛇茨ちゃんコンビという他にも修正力が働いてもおかしくないキャラがいるのに...しかもこの二人はゲームでは滓閔よりも遥かに有能だった。なのになぜこの二人には何事もないのに滓閔だけに修正力が働いてしまったのだろうか?
「取り敢えず話は終わりじゃ。玲奈さん、また会おう。」
「待って下さい‼貴女の名前は⁉」
「倉聟三田釵というただの占い師じゃよ。」
(倉聟?どこかで聞いた記憶が...)
倉聟三田釵と名乗ったそのおばあさんが去っていくのを私はただ眺めることしかできなかった。
なお、この歴史の修正力が原因で後に玲奈達は大騒動に巻き込まれるのだがその事はまだ誰も知らない...




