69.今年の運動会は⁉
第69話
今年の学園の運動会は急な悪天候のせいで数日後に延期になるというハプニングこそあったが、去年のような事件などは全くなかった。父や母も去年の事を踏まえて怪しそうな人物を絶対に私に近づけず、私の弁当や飲み物なんかも徹底的に安全なのかどうか調べたんだそうだが杞憂に終わって本当に良かった。
「それにしても玲奈ちゃん、大活躍だったね‼」
「いえ...誇れる程の事ではありませんよ。」
「そんな事ありません‼玲奈ちゃんのおかげで三組が優勝できたも同然ですから!」
昼休みになり食堂に集まった私達は二日前に行われた運動会の事で話に花を咲かせていた。
「玲奈ちゃんは三組の救世主です!」
「真里愛ちゃん...」
確かに今年の運動会で私は好成績を叩き出したが流石に救世主とまではいかないだろう。三組が優勝できたのは皆で練習を頑張ってきたという団結力と本番での強さがあってのもので私一人の力で優勝できたとは言い難いのだ。
「それに比べて奏は借り物競走でお題と全然違うものを持ってくるとか...足引っ張りすぎだったね~‼」
「蛇茨‼うるさいわね!あれは...その、あれよ...順位を抜かれそうで急いでたっていうのと日光が眩しすぎて視界が狭かったっていう事情があったのよ‼」
「だからって、メガネとサングラスを間違える人いるのかしら?」
「いや...たっ、たぶんいるわよ‼いるに違いないわ!」
「まぁまぁ、奏さんに蛇茨さんも二人とも落ち着いて下さい。」
蛇茨ちゃんが奏ちゃんをいじって二人とも口論になっているが二人とも本気で喧嘩をしてるわけじゃない。それでも止めに入る優里ちゃんは何て優しい子なんだろう。
「優里ちゃんは二人を下の名前で呼ぶようになったんですね。」
「はい‼いろいろあって...」
私達のグループのメンバーで優里ちゃんと同じクラスに編成されたのがこの二人で本当に良かった。
優等生タイプだが自分から私以外の他のメンバーに話しかける事は少ない清芽ちゃんや、まだ人柄がはっきりと把握できてない沙友里ちゃん、心の底で闇を抱えていた真里愛ちゃんでは優里ちゃんと上手くコミュニケーションがとれなかった可能性もあったからだ。
「あっ‼玲奈様!その事なんですけどね...蛇茨ったら~私が優里に名前で呼んでいいって言ったのに嫉妬したのか、『私の事も下の名前で呼びな‼』って言ったんですよ~‼めっちゃ可愛くないですか⁉」
「ばっ、馬鹿‼何言ってんのよ!私はただ...自分だけ名字呼びとかだと見下されてるみたいだったから嫌だっただけだし!」
さっきの仕返しとばかりに名前呼びの経緯をばらされた蛇茨ちゃんは顔を真っ赤にして相変わらずのツンデレを発動していた。
「素直に羨ましいって言えばいいのにねー‼」
「姫由良‼貴女は黙ってなさい!」
蛇茨ちゃんのその可愛らしい様子を私達は微笑ましく見守っていたのだった...
・・・・・
「レイナオカエリ!」
「ありがとう、フィクサー。」
屋敷に戻った私が自分の部屋に入ったところ、フィクサーが飛んで来て私の肩にとまってきた。
「陽菜の相手しなくていいの?」
「マダカエッテナイ!キョウハトモダチノイエニイクラシイ。」
「そうでしたか。」
莱們ちゃんからは今日は陽菜を三条家に招くなんて話は聞いてないから、恐らく萌留ちゃんの家に遊びに行ったのだろう。
(萌留ちゃんのご両親驚いてるだろうね...)
地下家でしかない自分達の子が公爵家の娘を家に呼んだとなれば大騒ぎになるだろう。でも莱們ちゃん曰く、萌留ちゃんは陽菜を公爵令嬢としてではなく、一人の友人として見てくれてるらしい。それに性格も似た者同士だから何とか上手くやっていけそうな気がする。
「失礼します!玲奈お嬢様‼」
...なんて思っていると姫香が私の部屋に入ってきた。
「玲奈お嬢様、醒喩からの知らせですが陽菜お嬢様が帰るのが少し遅くなるそうです。」
「よっぽど萌留ちゃんの家で楽しいことがあったんでしょうか?」
私がそう言うと報告に来た姫香が何やらきょとんとした顔になっていた。私、何か失言でもしたのかな?
「玲奈様は勘違いなされてるようですね。陽菜様が滞在してるのは有明滓閔の自宅ですよ。」
「はあっ⁉」
その答えを聞いた私は唖然とした。まさかここまで二人の仲が深まっていたとは夢にも思ってなかったからだ。
(できれば陽菜には滓閔と関わってほしくない...でもせっかく仲良くなれたのに今さら引き離すなんてむごすぎるし...)
その日、私はいろいろと不安でいっぱいで全然眠りにつけず、またしても遅刻しかける羽目になったんだとか...




