68.陽菜は大切な妹だから...
第68話
陽菜や莱們達が入学して1ヶ月が過ぎ、5月...明成学園では毎年恒例の運動会が行われる月になった。
「玲奈お姉ちゃん~‼明日の運動会楽しみだね~‼」
「そうですね。」
「私と萌留ちゃんは玉入れに出るんだ~‼お姉ちゃんはどの競技に出るの?」
「えっと、私はですね...」
運動会にそなえて私達は練習に練習を何度も重ね、ついに念願の運動会当日をむかえ...
...られなかった。
「いやだー‼運動会が延期なんて‼」
「陽菜、今年の運動会ができなくなったわけじゃないんだから落ち着きなさい。」
運動会当日の朝...何といきなり、台風が来た時並みの大雨が降りだしてしまったのだ。学園側もこの天候の変化を重く見たのだろう、当然この日の運動会を中止したうえ、万が一にそなえてこの日は臨時休校とする事を急遽決定したのだ。
「1週間後を楽しみにしてればいいじゃないですか。」
「いやだー‼今日やりたいの~‼今日を楽しみにしてたの~‼」
「陽菜お嬢様、玲奈お嬢様を困らせてはいけませんよ!」
「醒喩さんは黙ってて‼」
まぁ、陽菜がこの日の為に遊ぶ時間を削ってまで競技の練習に励んでいたのは私も知ってるから陽菜の気持ちも理解できる。だが、それでもこの天気で運動会を開くなんて流石に無理がある。私達は良くても他の人達にとっては大迷惑だろう。
「だから今日は我慢しよ?」
「いやだー‼いやだー‼うわぁぁぁ~ん‼」
「ちょっと‼陽菜⁉」
とうとう、陽菜は泣きながら私の部屋を走り去ってしまった。
「玲奈お嬢様、申し訳ございません‼」
「頭を上げてください、醒喩、貴女のせいではありませんよ。」
その陽菜の後を追って醒喩も私の部屋から走り去っていった。それを見届けた私は思わずため息が出てしまった。実際、私も今年の運動会では真里愛ちゃんとリレーの選手に選ばれていたから陽菜と同じくらい運動会を楽しみにしていたのだから...
(全く、何でよりによって今日が大雨なんでしょうね...)
陽菜が落ち着いたら、せめて今日は思う存分一緒に遊んであげようと私が思っていると...
「玲奈お嬢様‼大変です!陽菜お嬢様が...陽菜お嬢様がどこにもいません‼」
「はぁっ?」
醒喩の衝撃的な発言に私は唖然としてしまった。
・・・・・
「姫香、陽菜はまだ見つからないの?」
「申し訳ございません‼」
それから私と岩倉家に仕える使用人達は必死になって陽菜を捜し回っていた。だが、陽菜は一向に見つかる気配がない。
「陽菜...」
「やっぱり、私のせいです...私がもっと早く陽菜お嬢様に追い付いていれば...」
「.........」
醒喩の話によればあの後、陽菜の後を追って彼女の部屋に戻ったところ、そこにはフィクサーしかいなかったらしい。しかもフィクサー曰く、陽菜はこの部屋には戻って来ていないというのだ。つまり、陽菜は部屋に戻る事なく忽然と姿を消した事になる。
「もう貴女は黙ってなさい...」
「玲奈お嬢様...」
最初にその事を聞かされた時、私は醒喩の胸ぐらを掴んで『醒喩‼何でそうなるのよ⁉陽菜は私の大切な妹なんだよ⁉貴女はもしも陽菜に何かあったら責任とれるの⁉もし何かあったら貴女のみならず、貴女の家族も責任を問うて...‼』と感情をあらわにして怒鳴りつけて必死に姫香に宥められていた。
やっとの事で落ち着きを取り戻し、陽菜を捜してる最中だ。
(もしかして誘拐⁉いや、でも岩倉家のセキュリティは完璧で外部の人間が立ち入るのは容易じゃない...)
となると、陽菜は拗ねて岩倉家の屋敷のどこかに隠れているという事になる。でも陽菜が隠れそうな場所なんて心当たりが...
(ん?待てよ...もしかしてまたあそこか?)
心当たりが1つだけある。それに気づいた私は一人でその場所に向かったのだった。
・・・・・
岩倉家の庭のとある倉庫にて...
「陽菜...」
「玲奈お姉ちゃん...何でここが分かったの?」
「だって私は貴女の姉だから...」
「玲奈お姉ちゃん...」
私の予想通り陽菜はここにいた。なぜ私が陽菜の居場所を分かったのかというと陽菜は岩倉家に来たばかりの頃、辛い事があるとこの倉庫に籠る事があったからだ。
陽菜は私には隠していたつもりだったが実際にはその事を私に教えてくれた人物がいた為バレバレだったのだ。
「皆が私の事捜してるの知ってるのに...わっ...私のためにこんな迷惑かけてごめんなさあぁぁぁい~‼ううっ‼」
陽菜は泣きながら私に抱き着いてきた。
「気にしないでください。私も運動会が延期になったのは悔しいです...ですが、その分ということで今日は私といっぱい遊びましょう‼」
「玲奈お姉ちゃん~‼」
どうやら陽菜は機嫌を取り戻せたようだ。
(よし‼すぐにでも一緒に...って、あっ...)
「玲奈お姉ちゃんどうしたの~?一刻も早く遊ぼうよ‼」
「陽菜、遊びの前にする事が...」
私はある事に気づいた。
「どうしたの~?」
「服です!服‼びしょ濡れだから風邪引く前に着替えないと‼」
「あっ...」
こんな大雨なのに私達二人とも傘もささずに庭に出たもんだから服がびしょ濡れになってしまい、遊びの前に一旦お互いの部屋に戻って着替えをする事になった。
ちなみにこれは余談だがフィクサー曰く、陽菜は部屋に戻った瞬間、待ち構えていた醒喩に思いっきり抱き締められたらしい。
あちらの主従愛も深まったようで本当に良かったね...




