5.社交界デビューの当日と取り巻き女子との初対面
ある主要人物が登場します。
第5話
そして、ついに次の日の朝がやって来た。
(あぁ...ついに始まっちゃうんだ。ここで破滅フラグを回避できるかどうかで私の運命は変わるんだよね...とりあえず、特に二条兼光とは絶対に関わらないようにしないとね...)
私は緊張しながらも、岩倉家が雇っている運転手が運転する車に乗って二条家が主催するパーテイーの会場へと向かっている途中だった。
一応は両親にパーテイーを欠席したいという旨を伝えてはみたのだが、岩倉公爵家の令嬢ともあろう者が二条家主催のパーテイーに来ないとなるとそれはつまり二条家の顔に泥を塗る事になり、色々と問題になってしまうしまうという理由で却下された。正直、今もこの場から逃げ出したいくらいなのだ。
「あの...玲奈お嬢様、大丈夫なのですか?」
「えぇ...問題ありません。」
姫香に心配されながらも心を整えておく。まぁ、攻略対象である兼光と婚約さえしなければいい話なのだと私は軽い気持ちでいた。そんな事を思っている内にようやくパーテイー会場に到着した。
だが、このとき玲奈は一つミスを犯していた...攻略対象の事ばかりに気を取られてしまっていて、もう一つの重要な出会いがあることを全く予想していなかったのだ。
・・・・・
「えぇ、この度は二条家主催のパーテイーにお集まり頂き誠にありがとうございます。皆様、本日は思う存分にお楽しみ下さい。」
そう言っているのは、二条家当主で兼光の父である二条継友様だ。ゲームの玲奈お嬢様は兼光ルートでは彼にそれなりに気に入られていたが、最終的には見放される事になってしまう。
彼は幼馴染みを亡くして悲しみに浸ってる息子の兼光を元気付けるために手頃な新しい令嬢を探していた...で、それに選ばれた令嬢というのが私だったというわけだ。
(他でもない親心だったんだろうけど...兼光からみれば煩わしかったんだろうな...)
私が継友様を哀れんでいると、
「もしや、貴女は岩倉玲奈様でしょうか?」
誰かに声をかけられた。声がした方を振り向いてみると、私と同じくらい歳の令嬢が立っていた。
「はい、そうですが...貴女は?」
「ご機嫌よう、菊亭清芽と申します。玲奈様とは仲良くなりたいと思い声をかけさせてもらいました。」
(なっ...この子まさか⁉)
菊亭清芽と名乗った令嬢に見覚えがありすぎる。そうだ...この子はゲームの玲奈お嬢様の取り巻きの一人だ。冷静な性格で頭が良く頭脳面で玲奈お嬢様を支え、ヒロインいじめにも加担した令嬢だ。だが、玲奈お嬢様はこの清芽の事も手駒の一つしか見ておらず、最終的にはどのルートでも清芽に見捨てられる事になる。
あるルートでは改心して新たにヒロインに協力する事となったり、またあるルートではこれまで密かに蓄積されていた恨みから玲奈お嬢様の最後の計画を破綻させたあげく、自分だけ海外へ逃げ延びる。玲奈お嬢様の取り巻きの中では比較的ましな末路だが実家である菊亭家自体のダメージは避けられない。
菊亭家は藤原北家閑院流、西園寺家の庶流で別名で今出川家とも呼ばれている。六候家の一つとして侯爵の爵位を授かっており、家禄だけで言えば摂家にも匹敵する。
そんな家をヒロインや攻略対象が無傷で許す筈がない。菊亭家は清芽が玲奈お嬢様に加担して積み重ねた悪行の数々が攻略対象の告発で国に知られる事になり、良くて男爵に降格、最悪の場合は平民に落とされる。当の実家からみればいい迷惑だ。
とにかく、清芽と仲良くなりたい。そうすれば見捨てられる事もないだろう。
「あの...どうかなされましたか?」
「あっ⁉いいえ、清芽ちゃんが可愛すぎてずっと私の物になればいいのにと思ってました。」
「はっ...はい⁉」
ん?何か変な事を言ってしまったのか?私はただずっと清芽ちゃんと友達でいたいという気持ちを伝えたのだが。言葉がたりないのだろうか?
「つまりですね。清芽ちゃんの瞳にお口がうぶちゃんで可愛らしくて‼あっあと髪型も似合ってますし頭も良さそうで‼こんな方と一緒になれるなんて嬉しくて仕方ないのです!あと...」
「あ...あのっ‼い...一旦失礼します‼」
私の声を遮って顔を真っ赤にして清芽ちゃんはトイレの方へ向かってしまった。もしかして怒らせてしまったのだろうか?
「姫香、私は清芽ちゃんを怒らせてしまったのでしょうか?」
「いいえ、そんな事はないでしょう。あれは玲奈お嬢様に褒められて喜んでいるのです。」
本当にそうだろうか?私は少し不安だった。
「...まぁ、今の玲奈お嬢様に言われれば誰でもあぁなるんですけどね...二つの意味で。」
姫香がボソボソと何か呟いていたようだが、私には聞き取る事はできなかった。
玲奈お嬢様の取り巻きは他にもいます。