67.誰しも裏の顔ってあります?
第67話
「おじいちゃん久しぶり~‼」
「嘉孝様、お久しぶりです。」
「おぉ‼玲奈ちゃんに陽菜ちゃん‼元気にしてたかね?」
とある休日の事だ。この日、私と陽菜は久しぶりに嘉孝さんの家に遊びに来ていた。
「おぉ、少し見ない間に大きくなったな~。」
「うん‼」
「......」
陽菜と嘉孝さんはお互いに久しぶりに会えて嬉しいのか、まるで本当の祖父と孫のようにじゃれあっている。その光景に私は少しだけ嫉妬してしまった。
(あまり覚えてないけど、私も小さい頃は嘉孝さんやその奥さんにあぁやって可愛がってもらったっけ...)
あの頃の嘉孝さんは私のもう一人のおじいちゃんみたいな存在だった。奥さんが失踪してからは岩倉家とは疎遠になってしまったが、それでも久しぶりに会った私には昔と変わらない態度で接してくれた。
「さぁ、中に入りなさい。お菓子でも食べながらゆっくりしていくといい。」
「ありがとうございます!」
「おじいちゃん、ありがとー‼」
こうして私達は嘉孝さんの家にお邪魔させて貰い、数時間ほど楽しい一時を過ごしたのだった。
・・・・・
(全く、変わった子達だな...)
自分の家の玄関を出て帰路に着く玲奈と陽菜を見送りながら嘉孝は今日の事を思い返す。
二人といろいろ会話をしたのだがその中で嘉孝がかつて保有していた先祖代々伝わる土地をとある貴族の手の者に半ば強引に売らされたと言った時の玲奈の反応は忘れられない。
(答えが『私がそいつらをとっちめて土地を取り戻してあげますよ!』だったからな...いくら本当の孫のように可愛がってもらったとはいえ、儂の為にそこまでするのか?)
その場では自分の事で貴族同士の揉め事は起こさないでほしいといってたしなめたが、その時の玲奈の目は本気だった。自分が止めなければ何かやらかしていたかもしれない。
(だがな、玲奈ちゃん...儂を信じすぎちゃダメだ...)
見送りを終えた嘉孝が部屋でゆっくりしていると、
「松殿さん、いらっしゃいますか?」
(やれやれ...今日は来客が多いな...)
誰かが自分を訪ねて来たようだ。今度はいったい誰だろうか?
「どちら様...って、またアンタか...もうここには来てほしくないというに...」
「そうはいかないのは貴方が一番分かっていますよね?」
「チッ...」
訪ねてきたのは20代前半くらいの女性だった。何度も会った事はあるが彼女は嘉孝にとっていろんな意味で非常にめんどくさい相手なのだ。
「単刀直入に聞きますね。明成学園初等部元校長、副木芳文氏...ならびに警備員の堀上硲氏の件は貴方の仕業ですか?」
「何を言っとる、ただの一般人の老人がそんな事できるわけがなかろうに。」
毅然とした態度で嘉孝は言い放つ。一応、自分の話は筋が通っている。これで訪問者もこれ以上の追求を諦めてくれると思ったが甘かった。
「確かに。ただのご老人なら無理でしょうね...ですが貴方は違う。」
「何が言いたいのだ?」
次の瞬間、彼女は衝撃的な発言をする。
「何か知ってる事があったら教えてくださいよ。明成学園副理事長の松殿嘉孝様?」
「......ほう、お主...知っておったのか。」
嘉孝は心の中で動揺するも決して顔には出さない。だが誰も知らないはずの自分の秘密を知られた衝撃は大きかった。
「ただ、生憎だな。副木の奴に関しては本当に儂は関わってはおらんぞ。」
「そうですか...貴方の言葉を信じるなら残りは玉里家の御曹司くらいか...今日はもう失礼しますね。」
「お茶くらい飲んだらどうかね?」
「いいえ、結構です...それでは‼」
嘉孝の言葉から収穫なしと見た女性は会話を切り上げてさっさと帰ってしまった。
(全く...いきなり訪ねたと思ったら、急に話を切り上げて帰りおって...そんな奔放な性格なら周りの人間の反感を買ってもしかたあるまい...なあ、小娘...いや、烏丸七蝶よ...)
そんなわけで嘉孝にとって今日は久しぶりに騒がしい一日になったのだった。
誰が味方で誰が敵なのやら...




