63.案外まともだった⁉
第63話
私が滓閔の相手をする羽目になって困り果てていると三聖室の扉が開き、
「新入生のみなさん、ここが三聖室でーす‼」
という声とともに新入生達を引き連れた奈乃波さんが入ってきた。
「あっ‼玲奈ちゃん久しぶりね~‼お姉ちゃん会いたかったわ!」
「奈乃波さんお久しぶりです。」
そういえば春休みは二条家を訪問したり、陽菜の入学の準備したりと忙しく奈乃波さんと遊ぶ機会がなかったっけ...奈乃波さんが私を恋しがる筈だ。
「あっ‼玲奈お姉ちゃん‼」
「玲奈お姉様!」
「陽菜、莱們ちゃん、二人とも待ってましたよ。」
奈乃波さんに引き連れられてきた陽菜と莱們ちゃんも私の元へ駆け寄ってきた。
「あれっ⁉かすみんちゃんだー‼何でここにいるの?」
「あっ...岩倉陽菜さん...」
どうやら陽菜と滓閔は知り合いのようだ。まぁ、莱們ちゃんとも知り合いだし、同じ1年生同士面識が会ってもおかしくないが...
「実はですね...図書室と間違えて三聖室に入ってしまって...それで怒り心頭に遭ったという感じですかね。」
「そもそもなのよ‼どこをどう考えれば図書室と間違うのよ!」
「普通分かるのでは?」
ずっと私の近くで黙ったままだった清芽ちゃんと奏ちゃんが会話に割り込んできた。
「うぅ...すみませんでした...」
二人から責められた滓閔はしょんぼりしてしまった。私はてっきりさっきみたいに天然な返答をするとばかり思っていたのでこの反応は正直意外だった。
「さっきみたいに言い返すかと思ったのに...」
「えっ⁉さっき私何かやらかしましたか?」
『『はっ?』』
嘘でしょ⁉貴族の先輩相手にあれほど言っといて、全く覚えていないというのか?
「実を言いますと...私、何かをやらかす度にやらかした後の記憶がスッポリと抜けちゃうんですよね...今も間違えて三聖室に入ったのは覚えてるんですけどその後は覚えてないんです...気がついたら陽菜さんに話しかけられてました。」
『『はぁっ⁉』』
(マジか...)
ミラピュアでの滓閔も確かに天然な発言や突発的な行動は目立ったがその間の記憶がないなどという設定はなかった筈だ。そもそもゲームの滓閔は今のような落ち着いた口調で話す事もないし、一人称も『かっすー』から『私』に変わっている。そう考えれば目の前にいるこの子はミラピュアの滓閔とはまるで別人のようだ。
皆が驚きを隠せないでいると...
「まぁまぁ、それでもかすみんちゃんは悪い子じゃなさそうだから大丈夫だよー‼皆もかすみんちゃんの友達になろうよ!」
陽菜がニコニコしながら滓閔の腕にしがみついている。全くこんな時も能天気な妹だがそこが可愛くもある。
「かすみんちゃん‼これからはさん付けはいらないよ!陽菜って呼んでね‼」
「えっ⁉ですが...」
「いいから呼んで‼」
「では...よろしくお願いしますね、陽菜ちゃん。」
「うん‼」
陽菜はまた友達が増えたと無邪気に喜んでいる。それにしても滓閔に記憶が残らないとはどういうことだろう?
(二重人格?それとも単に物忘れが激しいだけ?)
「玲奈お姉ちゃん‼玲奈お姉ちゃんもかすみんちゃんとお友達になってくれる?」
「えっ⁉」
陽菜に言われて正直迷った。性格が少し変わっているとはいえ、滓閔が一応ヒロインのサポートキャラで私の敵である事に変わりないのだ。下手をすれば破滅フラグになってしまうかもしれないからできればそんな子とは関わりたくない。
...でも、
「玲奈お姉ちゃんお願い‼」
「岩倉玲奈様‼私じゃダメでしょうか?」
「...分かりました。陽菜がそういうなら...これからよろしくお願いしますね、滓閔ちゃん。」
「はい‼」
「良かったねー‼かすみんちゃん‼」
(とりあえず、清芽ちゃんの時と同じように仲良くなる事で少しでも破滅フラグを回避する作戦で行くかな...)
可愛い笑顔を見せる年下の女の子二人に頼まれて断れるほど、今の私は非情にはなりきれなかった...




