62.不思議ちゃんには苦労する...
第62話
有明滓閔。
彼女を初めてみた者はただの個性的な性格でちょっぴりおっちょこちょいで怖いもの知らずな女の子にしか見えないだろう。実際にミラピュアでもその性格に変わりないし生い立ちも地下家ですらなく、ただの一般生徒に過ぎない。
ここまで聞けば何で私が彼女を警戒しているのか?と不思議に思うのも無理はない。
その答えは単純だ。ゲームの彼女は『一応』、ヒロインのサポートキャラだからだ。なぜ『一応』と付け加えたかというと彼女は姫由良ちゃんや蛇茨ちゃんなど他のサポートキャラと違ってほとんど物理的な戦力にはならないからだ。
人の良い性格が幸いして悪役令嬢陣営の罠に真っ先に引っ掛かるのは序の口、酷い時は人質にされることもあるなどむしろ、ヒロインの足を引っ張っている描写が目立っていた。
だが、彼女は戦力にはならないが決して雑魚キャラというわけではない。悪役令嬢陣営が彼女に危害を加えようとすると大抵は彼女のマイペースで天然な発言や破天荒な行動によって仲間内でのペースが乱され、間接的にヒロイン陣営の勝利のきっかけを作るなど違った意味でのサポートキャラなのだ。(なにげに清芽ちゃんの離反のきっかけまで作ってたし...)
さらに全てのルートでプレイヤーが彼女の行動の選択次第でバッドエンド直行になったり、逆にバッドエンド寸前の最後の最後で大逆転勝利のハッピーエンドを迎えたりと明暗を大きく左右されることになるなど、ミラピュアのトリックスターとも言える存在である。
そんな彼女は今......
「ごめんなさいです~‼もうたぶん間違えませんから~‼」
「はぁっ?たぶんって何よ⁉」
どこと間違えたのか三聖室に入ってしまい、上級生にこっぴどく叱られていた。
「えっとですね~、『失敗を一度もした事がない人間というのは一度も新しい事をした事がない人』なんて言うじゃないですか~‼たまたま私が『新しい事をした人』にあてはまっただけという事にはできないでしょうか?」
「どういう意味よ⁉」
「鳥で例えるとですね~、デパートで売ってる卵と自分が産んだ卵を二度は間違えないぞという意味ですかね~?それか植物で例えたらニラとスイセンの葉を間違えないぞという意味だったりします~?」
「いや、あのね...」
「それか、私が印籠を持ってたら入れてくれますか~?」
「なんと‼黄門様でしたかー‼...ってなるか‼時代劇の見すぎよ!ちょっと、疲れちゃったわ...」
いつの間にか滓閔を叱っていた上級生の女の子は彼女のマイペースさに翻弄され怒りを通り越して呆れていた。どうやらミラピュアでみせた個性はこの頃から既に発揮されていたらしい。この子とまともに会話できたヒロインを本当に尊敬します...
「あっ‼岩倉様!この子何とかしてくださいよ‼」
「えっ⁉」
近くにいた私に気づいたのか上級生が必死に頼み込んできた。
「いっ...岩倉玲奈様ですか~‼はじめまして‼有明滓閔です~!仲良くして下さい~!」
「はじめまして...」
全く面倒な役目を押し付けられたものだ。まぁ、滓閔に悪気は一切ないのは知ってるんだけどね...
「玲奈様の事は三条莱們様からしっかり聞いてますよ~‼かつてない歴代最高のご令嬢なんですよね~‼私もそれを聞いただけで本当に大尊敬です~‼」
「はい?」
おいおい‼莱們ちゃん...貴女はいったいこの子に何を吹き込んだんだ⁉
 




