58.貴女と出会えた事で 3
この題名という事は⁉お察しの通り、他キャラ視点です。
第58話
「まぁ‼何であの卑しい女の小娘がこっちの屋敷に来てるのかしら⁉」
「えっ...その...お父さんに会いたくて...」
「はぁ!?あんたが長埜様を気安くお父様なんて呼ばないでちょうだい‼美留世!早く行きましょう‼」
「はい、お母様。全く貴女みたいな子が妹だなんて恥ずかしくて仕方ないわ!さっさとここから出ていきなさい!」
「ううっ...」
数年前までは陽菜がこのような扱いを受けるのは日常茶飯事だった。義理の母や姉からはもちろんのこと、奥田家に仕える使用人からも嫌みや陰口を言われる日々だった。そのせいで、極度に人見知りな性格へと育ってしまった。
そのため、当然ながら友達もいない。
おまけに陽菜が住んでいるのは奥田家が所有している如何にも安物のみすぼらしい別邸で、今日みたいに陽菜が本邸に入る事は絶対に許されない事だった。
陽菜はどうして自分だけがこんな扱いをされるのか、最初は分からなかった。
だが、ある日のことだ。
『全く...何で、奥様はあの子をそこまで嫌ってるのかしらね~⁉』
『あら~‼貴女は知らなかったの?あの子は...奥様の娘じゃないからよ。』
(そんな...)
使用人達の陰口を聞いて理解してしまった。陽菜と今の母は血の繋がりがなく、本当の母は陽菜が生まれた直後に亡くなったという事を...
(もう、今の家族なんかいらないよ...あぁ...何もかもぜ~んぶ消えちゃえばいいのになぁ...)
それからというものの、陽菜は完全に心に傷を負ってしまい、夜寝る時間になるたびにそんな事を思うまでになっていた。
そして願いは以外にも早く叶う事になる...
・・・・・
「かわいそうに...今まで寂しかっただろうに...」
「おじいちゃん...」
その日は突然だった。奥田家の使用人達によって強引に車に押し込まれたかと思うと、人気のない場所で車から降ろされてそのまま置き去りにされてしまったのだ。
もう、どこにも行く宛もない陽菜がしばらくその場で泣きじゃくっていると偶然にも通りかかったおじいちゃんこと、松殿嘉孝によって一時的に保護され、彼の家に住ませてもらうことになった。
最初こそ陽菜は嘉孝を警戒していたが、彼の人柄の良さに惹かれたのか彼の家に来てから3日目には『おじいちゃん』と呼ぶほどにまで彼の事を信頼するようになったのだった。
・・・・・
そして、嘉孝の家に来てから数日後のことだった。
陽菜が一人で遊んでいると来客と話していたはずの嘉孝が現れた。
「陽菜ちゃん、君に会わせたい人がいるからこっちにきてくれないかい?」
「えっ⁉うっ...うん...」
自分に会いたい人など心当たりはない。...もしや奥田家の人間が自分を連れ戻そうとここまでやってきたのではないか⁉
そう思った陽菜は少々、不安を感じながらも嘉孝についていった。
嘉孝に連れられて彼の部屋に入ると、そこには二人の可愛い女の子が座っていた。身なりからして二人ともどこかのご令嬢であることには間違いない。
二人を見た陽菜は奥田家の人間ではなくて内心ホッとしたがまだ安心はできない。もし、この二人が奥田家の協力者だったりすれば...陽菜は緊張のあまり嘉孝の手をぎゅっと握りしめていた。
だが、そんな予想は大きく裏切られる事になった。
二人のご令嬢は自己紹介をした後、早々に陽菜と友達になりたいとまで言ってきたのだ。
それを聞いた陽菜は最初は戸惑っていたが、やがて、驚き以上に喜びが上回っていた。
(うっ...嬉しい!私にも友達ができるなんて...)
そして、もっと驚かされたことは陽菜が辛い過去を話している時に年上の方のご令嬢...岩倉玲奈がぎゅっと陽菜を抱き締めて励ましてくれたことだ。
抱きつかれた陽菜は頭が真っ白になっていた。今まで家族の誰にも抱き締められるという経験をした事はない...つまり自分は愛情に飢えていたのだと事を改めて自覚した。
(ううっ...玲奈お姉ちゃんが本当にお姉ちゃんだったら良かったのに...)
玲奈は同い年で実の姉である美留世とは大違いだった。赤の他人であるはずの陽菜の事もまるで自分の事のように気にかけてくれる。
『私...玲奈お姉ちゃんとずっといたいな...さよならしたくないよ...』
玲奈ともう一人のご令嬢と遊びながら陽菜はそんな事を考えていた...
うっかり、そんな言葉が声に出てて、嘉孝に聞かれていたとは知らずに...この陽菜の発言が嘉孝に重大な決定をさせる要因になったのだった。
・・・・・
そして今...
「莱們ちゃん‼明日から学校だよ!楽しみだね‼」
「えぇ、私も楽しみにしてるわ!」
岩倉家に養女として迎え入れられた陽菜はもう一人のご令嬢...三条莱們と電話で話していた。莱們とは同い年という事もあってこうして電話で会話する機会も多い。他にも玲奈の同級生とも仲良くなったりと、数ヶ月前とは一転して陽菜にはたくさんのお友達ができていた。
「陽菜が岩倉家のご令嬢として振る舞えるように私もできる限り、力を貸すから安心してね‼」
「ありがとう!莱們ちゃん。」
岩倉家に迎え入れられた当初は奥田家にいた時と同じように自分の陰口を言う一部の使用人もいたり、岩倉家の作法についていけなかったりと多少は苦労したが、奥田家にいた頃とは違い、陽菜はくじける事はなかった。
なぜなら、こちらは新しい父も新しい母も...そして新しい姉、岩倉玲奈も皆が陽菜に優しく接してくれた。つまり、前の家庭ではなかった愛情というものを感じる事ができたからだ。
温かい家族の絆があれば多少の嫌みなどもう、どうでも良くなっていた。もし、あのまま奥田家に残っていたらどうなっていただろう?
心を病んで一生、愛も友情もない暮らしをしていたかもしれない。そして最後には...いや...もう、これ以上考えたくもない話だ。
今では家族や友達以外にも自分に心から尽くしてくれる使用人や自分になついてきた鳥なんかもいる。自分はもう一人ぼっちじゃない。
今の陽菜に奥田家にいた頃の面影は全くなかった。
(私にたくさんのお友達ができたのは玲奈お姉ちゃんのおかげだよね‼本当にありがとう!だから...これからもずっと私のそばにいてね!)
こうして、玲奈によって陽菜は救われたのだった。
 




