56.元悪女VS悪女⁉
第56話
二条美嵩...
高慢でプライドが高く、ゲームではことあるごとに自分よりも下位の人間を見下していた。兼光ルートでは兼光が貴族でもないヒロインと結ばれることに猛反発しており、ひそかに兼光とヒロインの仲を引き裂こうと画策するなど玲奈お嬢様を差し置いて真のラスボスとも言える存在...
最終的には渋々ながらも兼光とヒロインの婚約を認める事になる。その後は役目を終えたのかひっそりとフェードアウトしてしまい、エンディングにも再登場することはなかった...
というキャラだ。
ゲームをプレイしてたファンの人達からは、
『彼女こそが真の悪役令嬢じゃん!』
『毒親最強候補‼』
『こいつは玲奈お嬢様の母にした方が良かったんじゃね?』
『こういう親にはなりたくない、いい反面教師になった。』
『継友さん、この人のどこが良くて結婚したんだ?離婚しろよwww』
『続編やリメイク版が出てもこの人は出さないでくれ!』
などと言われ、玲奈お嬢様と大差ないくらい嫌われていた。
だがその一方で、
『プライドが高い割には自分よりも上位の人間には大げさにペコペコペコペコしてやがるし、完全なるネタキャラじゃんwww』
『勘違いされやすいが兼光への愛情は本物でこの人は単なる親バカだった。』
『口は悪いが言う事は理にかなっている事も多い。』
『玲奈お嬢様とは違い、ヒロインの命まではとろうとしなかった。』
『兼光絡みの事件が起きた際は、ヒロインの作戦に(渋々ながらも)助太刀して見事な連携プレイをみせてるし、実は以前からヒロインの事を心のどこかでは認めてたのでは?』
『二条門流の家を最大限に利用するなどして幾度もヒロインを窮地に陥れており、女としては最悪だが、指導者としては有能。』
『最終的には改心したんだから問題なくね?』
といった意見も存在し、人によって好き嫌いが別れるキャラでもある。
そんな彼女が私の目の前に現れたのだ。
「ごきげんよう、美嵩様。」
「気安く呼ばないでくれないかしら⁉成り上がりの岩倉家の娘ごときが息子の許嫁など天地がひっくり返ってもあり得ないんだから‼」
さっそく罵倒されちゃったよ...まぁこの調子で私が兼光の許嫁から外れればそれで良しだし、ここは沈黙して耐えるか...
そうして私はしばらくの間、何も言わずに罵倒に耐えていたが...
「それに岩倉家は最近では地下家のさらに汚らわしい小娘を養女にしたなんて話も聞いたわよ‼ますます卑しい血を増やして一体何を考えてるのかしら~?オホホホホッ‼」
「...⁉」
以前に私が予想していた通り、彼女は何かしらの情報源で陽菜の素性を知ったらしい。
それにしても、私の事を貶すのはどうでもいいが、陽菜を貶すのは到底許せない‼
ブチッ‼
私の中で何かが切れる音がした。
そこから何があったかは覚えていない...
・・・・・
「玲奈‼落ち着け!一旦、その手を離せ!」
(...?)
兼光の言葉で我に返った私が周りを見渡すと、継友様や二条家の使用人がまるで開いた口が塞がらないかのように怯えた様子で私を見つめていた。
そして私は美嵩様の胸ぐらを掴んで今にも殴ろうとしている体勢だった。
美嵩様もあまりの出来事に呆然としていたがやがて私の手を振りほどくと、
「やっ...やっぱり私の思った通りね~‼こんな成り上がりの卑しい公爵家の女は野蛮で怖いわ~‼もう顔も見たくないから早く帰って頂戴‼」
と怒鳴ってきた。
(やったー‼これで兼光の許嫁候補から外れる事ができる!)
目標が達成された瞬間だった。
「はい‼貴女の息子などこちらから願下げです!ではごきげんよう‼」
私は喜びを堪えて言い返してやった。その時の美嵩様の唖然とした顔は忘れられない。そしてそのまま、兼光が止めるのも聞かず私は二条家を出ていったのだった。
だが、事態は思わぬ展開になってしまう事を私はまだ知らなかった。
・・・・・
(全く‼何なのかしら⁉あの小娘は‼岩倉家は一体どういう教育をしてるんだか...)
その日の夜、美嵩はまだ昼間の事を思い返していた。
兼光が許嫁にしたい女がいるので会ってほしいと言ってきたため会ってみたら相手は岩倉公爵家の娘だった。
摂関家と異なり、成り上がって公爵の爵位を得た岩倉家の娘など兼光に相応しい筈がない。この娘が自分に気に入られようとひたすら媚びを売る姿を想像しながら美嵩はこの娘を貶していた。
だが、何を言ってもこの娘は怒ることも媚びることもなくただ黙ってるだけでちっとも張り合いがない。つまらなくなった美嵩は今度はこの娘の家族を貶すことにした。
そして、岩倉家が最近になって密かに養女として迎え入れた小娘を貶した瞬間だった。
今まで黙っていたこの娘が口を開いたと思うと、
『はぁ⁉陽菜の事を悪く言うんじゃねぇよ‼クソ婆!所詮あんたなんてプライドだけ高くてあとは無能の癖によ‼陽菜よりもあんたの脳味噌方がよっぽど汚いわよ‼こんな女が二条家夫人だなんて二条家の方こそ卑しい血を増やしてるじゃない‼』
これまで聞いたこともないような暴言を吐いてきた。しかも自分の胸ぐらを掴んできて今にも自分を殴ろうとしているではないか。
幸いにも兼光が止めに入ったため事なきを得たが、あのままだったら自分は間違いなくこの娘に殴られていただろう...そう思うと内心震えが止まらなかった。
その後、美嵩の渾身の捨てゼリフも全く通用せずむしろ許嫁など願下げとまで言われてしまった。
(全くこれだから成り上がりの公爵家の娘は...)
美嵩はあらためて岩倉家を見下していた。
だが、一方で...
(あの娘...岩倉玲奈だったかしら?二条家に嫁いでから今まで私にそんな事をした人間なんていなかったのに変わった子じゃない...せめて名前と顔は覚えておかないとね...って‼私ったら何を期待してるのかしら⁉)
全く違う感情も生まれていたのだった。
 




