49.災いの芽は断つ
第49話
冬休みに入ったある日、
「はっ...離せぇぇぇ‼おっ...おい‼俺をいったいどこへ連れていくつもりだ‼」
私は自分のパソコンに目を通していた。そのパソコンには中年の男が抵抗むなしくどこかへ連れていかれる様子の映像がしっかりと映っていた。
「この男です。間違いありません。」
「そうかそうか、可愛い姪の力になれて良かったよ。」
「えぇ、ありがとうございます...叔父様。」
「うむ、またな。」
私はパソコンに映る映像を確認しながら叔父である昭三と電話で会話していた。
連行されていった中年の男の名は冷田正憲。流石に中堅以上の貴族には及ばないが平民でありながらそれなりの勢力を誇っていた資産家であり、人脈も深く貴族の知り合いも多かった。
そして実は彼...ヒロインの母方の伯父である。もう一度言う、ヒロインの母方の伯父なのだ。
ゲームの彼はその人脈と資金力を活かしてヒロインや攻略対象を支援している。
...とここまで聞けば姫由良ちゃんや蛇茨ちゃん同様、ヒロインのお助けキャラのように聞こえるが実態は全く違う。
というのも正憲は野心家であり、いずれ自分が貴族のトップ座に就く事を狙っていた。ヒロインを助けたのもヒロインが攻略対象と結ばれた暁には自分を公爵にするという取引があったからであり、ヒロインの事も自分の野心の道具としか見てなかった。
加えて人間性も最悪で自分がお金を貸している地下家の当主達相手に傲慢な態度をとる場面はもちろん、妹である筈のヒロインの母の事も嫁入りに失敗したバカ女と罵倒する場面もみられ、ゲームをプレイしてたファン達からもすっかり嫌われてしまった。
極めつけはルートによっては彼が玲奈お嬢様断罪の引き金になる点だ。この場合、ヒロインは最初は玲奈お嬢様を断罪するつもりはなく事態を穏便に済ますつもりだったが野心に溺れた正憲の謀略によって玲奈お嬢様への憎悪を植えつけられてしまったのだ。
最終的にどのルートでも自分を公爵にするという約束は果たされる事なく様々な要因で殺されるのが救いともいえる。むしろ、彼が生き残っていればゲームをプレイしてたファンからのさらなる批判は避けられなかっただろう。
そんな中で最近、正憲が昭三が経営しているとある会社に賄賂を払っている事を耳にした。原作知識を知っている私がこんな奴を野放しにしておく訳がない、私はこの話を利用することにした。そして、昭三に正憲がいろんな会社に御宅の会社と同じように賄賂を渡したり、会社の情報を流出させたりしてどの会社にもいい顔をしてるという噂があると伝えた。まぁ、実際にゲームでも万が一に備えて岩倉家にも賄賂を払って保身を図っていたぐらいだからあながち嘘ではない。
その結果、彼を危険視した昭三によって正憲は原作開始を待たずして早々に退場することになった。
(これで破滅要素がひとつ減ったね...)
正憲を処分した事でヒロインも野心家の伯父に唆される事なく普通の学園生活を迎えられるだろう。
(でもこれで叔父様に借りができちゃったな~。面倒な事にならなきゃいいけど...)
・・・・・
「ふん、我が姪よ。いつか借りは返してもらうぞ。」
玲奈からの電話が切れた後、昭三はそう呟く。
(しかし、なぜ玲奈はあんな小物を徹底的に始末したがったんだ?)
実は最初、昭三は相手が平民という事もあって証拠を集めて警察につきだすだけで済まそうとしたのだが玲奈から『警察は腐りきってて頼りになりません、秘密裏に始末してください!』と強く迫られこのような形になったのだ。
(もしかしたら我が姪は思ったより手強いかもな...)
数ヶ月前にどことも知らぬ地下家の娘を岩倉家で引き取り、妹として迎え入れた時も驚いたが今回の件でさらに驚かされた。玲奈は将来的に貴族界の大物になるかもしれない。
(全く、あれが本当に兄貴の娘なのか疑ってしまうな...)
昭三は使用人が用意したコーヒーを口にしながら玲奈の事を思い浮かべるのだった。
玲奈にも黒い部分はあるのです...