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ミラピュア~破滅回避への物語  作者: たかくん
幼少期編
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3.私が仕えるお嬢様

今回は姫香視点です。


第3話



(はぁ、今日も疲れたよ...もういっそのこと、ここから逃げ出したいなぁ...)



平田姫香にとって、岩倉公爵家に使用人として仕える日常...それは苦痛でしかなかった。


彼女の生まれた平田家は中家ちゅうけと称された中原氏なかはらしの末裔であり、明治時代まで代々が蔵人所の出納すいとうの職を世襲していた名家である。


...といっても、中原氏の嫡流というわけではない...あくまで分家であった。


また、嫡流である押小路家おしこうじけとは非常に仲が悪い関係である。なぜなら、平田家は本来であれば男爵の爵位を授かる筈だったのに押小路家の反対でお流れになったという苦い経緯があるからだ。


押小路家から見れば、幾ら知行石が自分や小槻氏おづきし嫡流の壬生家みぶけに次ぐ3位だったとはいえ、分家と同列に並ばさせられるなどという事は流石にプライドが許さないだろう。


その気持ちは分からなくもない...それだけならまだしも、押小路家は壬生家と組んで平田家に対して嫌がらせをするようになったのだ。


壬生家も代々出納の職に就く平田家を凡卑と強く見下していたのと内蔵寮をはじめとする自己に属する官人の多くを平田家に奪われたという過去もあって平田家を強く敵視していたために押小路家の誘いに応じる事にしたのだ。


その嫌がらせのせいもあって平田家は会社の経営が上手くいっておらず虫の息だった。他の家に援助を頼もうにも、上位の家は押小路家や壬生家の根回しをうけており、他の地下家も分家のくせに自分達を差し置いて男爵の位を授かろうとした平田家に反感を持っており、救いの手を差し伸べる家は全くの皆無だった。


社員の退職や事業の失敗が相次いで、ついに会社の倒産が目前に迫っていた頃だった...なんとあの岩倉公爵家が援助を申し出たのだ。岩倉家自体は羽林家でありながらも、かつての功績が称えられ公爵の爵位を与えられた家という事もあり、他の公爵家からは快く思われていなかった。そのために少しでも手駒が欲しいのだろう、その魂胆に姫香は腹が立ったが文句を言える立場ではなかった。


それでも、姫香の父は藁にもすがる思いで岩倉家に頼る事にした。その手土産として自分の娘、つまり姫香を住み込みの使用人として奉公に出したのだ。岩倉家で奉公する事になった姫香の環境は最悪だった。


まず、使用人同士の人間関係こそは特に問題はなかったが岩倉家当主の娘である玲奈の専属の使用人にされた事が完全に運の尽きだった。


この玲奈という少女はとてもわがままで自分勝手な令嬢だった。欲しいものは何でも手に入れないと気が済まない性格で他の令嬢の宝石を盗んできてなどと言われた時なんかは泣きたくなったぐらいだ。彼女は姫香の事を道具としか見てないのだろう。


そんな毎日を過ごしていく中で、姫香は岩倉家や家のために自分を売った両親を憎むようになっていった。本来であれば今頃は貴族としてそれなりの人生を歩む筈だったのに自分よりも10歳近くも年下の幼女のために苦労をしなければならない自分が情けなかったのだ。



(覚えてなさい...バカ娘。いつか復讐してやるんだから‼)



そう決めた姫香の行動は早かった。姫香は玲奈に猫を被る事にした。今までであれば諫めていた行動に全面的に従い、優秀な駒を演じる。そうすれば玲奈はいずれ姫香を信頼するだろう。そして信頼した相手に裏切られるのだ。その時の玲奈の顔が待ち遠しくて仕方なかった...



そんな想いで玲奈に仕えてきたある日の事だ。いつものように朝食を済ませた玲奈が階段で足を踏み外して転落しそのまま意識を失ったのである。



(これはまずい...早く目を覚ましなさいよバカ娘‼まだ死なれては困るのよ‼)



一見、姫香にとってはスカッとする出来事であったが冷静に考えれば充分まずかった。なぜなら、玲奈にこのまま死なれては復讐ができなくなるからだ。この憎たらしい娘は自分が殺すべきだ。このままでは勝ち逃げ同然ではないか‼


幸いにもその心配は杞憂でありしばらくして玲奈は意識を取り戻した。



...が、意識を取り戻した彼女は人が変わったかのように豹変していた。ご主人様や奥さまに対する接し方が変わっていたし、姫香の事にいたっては家族同然の一心同体だといい、自分の事を支えて欲しいと敬語で頼んできたのだ。その瞬間、姫香は確信した。


理由は分からないが、この子は本当に変わったのだと...


そこには、かつて姫香を道具としか見てないバカ娘の面影はどこにもなかった。何よりその笑顔がとても可愛かった。今までは憎んでた娘という事もありその笑顔も憎々しいものだったが今は違う。


(ま...待って可愛すぎる‼妹にしたい!食べちゃいたいかも!)


いろんな感情が流れ込んでくる。このままこの場にいれば自分を抑えられそうにない。なのでいつものように猫を被って部屋から出ていってしまったが姫香の頭の中は玲奈の事でいっぱいだった。


(べっ...別に完全に信用したわけじゃないけどほっとけないし‼玲奈...いや玲奈お嬢様は私が守るんだから‼てか何でなんだろう?お嬢様の事を考えてると胸が...)



姫香が自分の中で芽生えた新たな気持ちに気づくのはまだ先のようだ。




次回から玲奈視点に戻ります。

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