45.前世ではできなかったこと
第45話
「玲奈ちゃん、本当に大丈夫ですか?」
「玲奈様‼やはり、私がお供した方が...」
「大丈夫ですよ。お気持ちだけ受けとっておきますね。」
今日も学園で授業を受けたり、休み時間は皆でワイワイ喋ったりといつもと変わりない充実した日常を過ごしていた。
唯一、この日いつもと違った事はというと...
「玲奈ちゃん、やはり一人では危険です。菊亭家の車で岩倉家の屋敷までお送りしましょう。」
「ちょっと‼清芽‼何抜け駆けしようとしてるのよ!玲奈様は私の家の車でお送りするわ‼」
いつも私の送り迎えをしている車が故障してしまい、迎えにこれなくなってしまった事だ。それだけなら替わりの車を用意すればいい話だがこの日に限って何故か他の車も父の仕事の都合や洗車などで家を空けており、替わりの車が見つからないとの事だった。
そのため今日は徒歩で下校しようとしたのだが清芽ちゃんと奏ちゃんに反対され続けて今に至るという話だ。
「大丈夫ですよ。車は来ませんが替わりに優秀な護衛がついてくれるそうなので。」
「なるほど、だったら安心ですね‼」
「......」
二人には申し訳ないが護衛の話は嘘だ。なぜ私がこんな嘘をついたのかというと答えは単純、徒歩で下校することに憧れていたからだ。
前世で体が弱かった私は徒歩で出歩く事はほとんどなく、学校も親に送り迎えをしてもらうのが当たり前の日常だった。そんな私は皆でワイワイ話をしながら徒歩で下校する当時の同級生達が羨ましくて仕方なかった。だからお嬢様とはいえ、健康な体を手に入れた今世なら...と願い続けて数ヵ月が経過し思わぬ形で願いが叶ったのだ。私はこのチャンスを逃すつもりはない。
「では、また明日お会いしましょう。」
『『はい‼』』
こうして私は清芽ちゃんと奏ちゃんと別れ、一人で人生初の徒歩下校を開始するのだった。
・・・・・
数十分後...
(ふぅ...無事に帰宅出来て良かったー‼)
幸いにも何の事件にも面倒事にも巻き込まれる事なく、私は帰路に着くことができた。
徒歩でみる景色はいつも車の中で見てるものとはまるで別物だった。そよぐ風にたくさんの人々の楽しそうな話し声、これら全てが私にとっては新鮮なものだった。
(それより...あのお婆さんは何者だったんだろう?)
前述した通り、確かに事件や面倒事には巻き込まれなかったが実は私は下校中、不思議な人物と出会ったのだ。
それは岩倉家の屋敷まであと数メートルという距離に差し掛かった頃...
「ちょいとそこのお嬢さん。こっちに来てくれるかい?」
「はい?」
声がした方に視線を向けるとそこには片手に変わった色の水晶玉を持って、もう片方の手でこちらを手招きしているお婆さんが立っていた。
「ごきげんよう、私がどうかいたしましたか?」
「いやぁ、よく分からないがお嬢さんからは何かそこらの人間とは違う気配を感じたんだよ。それはたぶん、お嬢さんがお金持ちの家の子だからなんて理由じゃない...この世の人間とは何か異なるものを感じるのさ。」
(えっ⁉)
私は驚きのあまり、お婆さんから顔を背ける。もしかしてこのお婆さん、私が転生者だってこと見破ったの⁉格好からして見るからに占い師っぽいし...
「あっ、あの‼貴女は...ってあれっ?お婆さん?」
私が再びお婆さんの方に視線を戻した時、そこにはもうお婆さんの姿はなかった。いや...まるで初めからいなかったように煙のように消えてしまったのだ。
『実に興味深いお嬢さんだ...これからどうなるのかさらに興味深い...」
「......!!」
そして、私の頭の中にそんなお婆さんの声が聞こえたのは果たして気のせいだろうか?




